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評者◆小嵐九八郎
活字で音声の蘇りをきっちり誘う――大島廣志編『日本災い伝承譚』(本体一八〇〇円、アーツアンドクラフツ)
No.3500 ・ 2021年06月19日




■自身の駄目さの原因をなすりつけてしまうわけではないけれど、IT革命が起き、とりわけスマホが十数年前に登場してから俺の紙媒体の小説はますます売れなくなった。当方だけではないはず。スウェーデンの精神科医のアンデシュ・ハンセンの『スマホ脳』(新潮新書)によると「人は平均で一日四時間、若者の二割は七時間も使う」現状があり、紙媒体の小説より、チャット、ツイート、動画に神経を使う方が便利で楽しいのだろう。いずれにしても人類史の最大の革命が起きている。否、反革命か。ハンセンのこの『スマホ脳』はこの欄でも取り上げねばならないし、生きていたら取り上げるつもりだが、データによる裏付けと分析力は新書ながら五年に一度のもの。“人類滅亡”の科学的な論証がある。
 そのパソコン的、スマホ的な、手触り感覚なしで、温かみがなくて、匂いのないのと正反対の活字の本が出ている。東日本大震災とそれに伴う必然的な原発事故から十年、コロナ禍の長びく最中に、日本の人人、とりわけ地方の人人はどう仲間に、子孫に、災害の酷さを、怖さを伝えて残そうとしたかの本だ。当たり前のように、江戸時代や明治維新後の語りがあるので“迷信”や“当てずっぽう”をも含む。が、切実な思いがある。コロナ禍の時宜も得ている。
 その本は『日本災い伝承譚』(大島廣志編、アーツアンドクラフツ、本体1800円)だ。
 浦島伝説のような動物報恩話とか時世の大切さを教える説話などでなく『かちかち山』みたいな農耕儀礼の呪術と復讐の話でもなく、直截に、大災難への注意予報であり、切実な教えであり、人としての嘆きなのだ。しかも、取り上げられている伝承譚は、南は沖縄や鹿児島、北は北海道や青森・岩手で、半分の語りは土着語だ。活字で、音声の蘇りを、きりり、きっちり誘う。「疫病」編の「婆。婆。ンダケ(そうだ)。こっちは、こげだったがや」(山形県)。「んが(お前)どこさ行ぐどごでぇ」(岩手県)。「飢饉」編では「むがし、けがづ(飢饉)で、だんだん食うものがなぐなった。あるどごになんぼけがづでも御馳走にでも思って、テデァ(父親)ソバジ(そば畑)ふみさ行ったので……」(青森県、八戸)。この後が大変で、せつない。







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