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評者◆稲賀繁美
「三教思想」の可能性――「儒釈道」から「神儒佛」へ、さらに近代の宗教対話へ
No.3491 ・ 2021年04月10日




■講武所や長崎海軍伝習所、洋学所などを開設し、江川英龍、勝海舟、大久保一翁、高島秋帆らを登用した。その正弘の師が隆正だった。その姓「大國」はオオクニヌシに由来する。隆正は津和野の出身。同郷の西周や森鴎外への思想的感化も推測されている。勤王家の国粋思想の裏には、国際社会への覚醒がある。
 その森鴎外(1862‐1922)のすぐ下の世代、横山大観(1868‐1958)には《迷児》(1902)が知られる。薄暗い闇の広がる画中に佇み途方に暮れた童子を、4人の老賢者が囲んでいる。孔子(儒)、老子(道)、釈迦(佛教)に加え、ここにはイエズス・キリストまで立ち交じる。謎めいた図像だが、その成立の国際的背景や時代性が、ようやく仄かに見えてくる。水戸の敬神家の血統を受けた大観は、中國の「儒釈道」の図像に、一神教の救世主を「習合」させる一方、特定の開祖には収斂できない「神道」の人格的象徴は省いている。あたかもこの不可思議な「近代の宗教混淆の世界画像」の成立を許したのが、不在のままの神道だったかのように。
 その直後、大観は岡倉覚三(1863‐1913)の要請に従い、インドに出立する。岡倉は、1893年のシカゴ万国博覧会に併設された万国宗教議会で一躍寵児となったベンガルの宗教改革者、ヴィヴェカーナンダ(1863‐1902)と懇意になり、インドで諸宗教併存の実態に接し、「般若波羅蜜陀会」なる世界宗教会議を西本願寺で実現しようと企画しながら、結局挫折する。
 シカゴの万国宗教議会に出席した土宜法龍は帰路、パリのギメ美術館に招聘される。1874年の日本滞在で神道や仏教諸宗派と教義問答を交わしたエミール・ギメが万国の宗教比較研究所として開設した施設である。同じシカゴ会議に列席した平井金三の弟子筋からは、東京大学に宗教学講座を開設した姉崎正治(1873‐1943)が現れ、釈宗演が北米に派遣した鈴木貞太郎(1870‐1966)の『道徳経』英訳やKakuzo Okakura著The Book of Tea(1906)が説くTaoismやZenismも、同時代の宗教間対話、知的交流の熱い坩堝の渦中でこそ納得される。世界の諸宗教を束ねる大國隆正の「本学」から河合清丸(1848‐1917)の「日本国教」への展開を吟味するには、同時代のHindu普遍主義やIslam復興などへの参照も有効なはずである。後年の大観が《富嶽図》などで関わった「大東亜共栄圏」思想も、この潮流に棹さしている。

*宋琦「江戸時代中後期における神儒仏三教思想」(総合研究大学院大学、文化科学研究科・国際日本研究専攻、博士論文、公開発表会2021年1月22日に取材した。宋琦氏の出身地の熱河・承徳には、壮大な喇嘛寺院、孔子廟、道観が共存し、「普寧寺」には世界最大の木造千手千眼観世音菩薩が佇立する。なお、本稿はあくまで論者による発表会での即興発言に基づき、論文の内容には関わらない。本稿公表に際しては宋琦さんからご快諾とご斧正を得た。







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