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評者◆小嵐九八郎
権力者、権威ある者をギリリ批判――俵万智著『未来のサイズ』(本体一四〇〇円、角川書店)
No.3474 ・ 2020年12月05日




■もう三十数年が経つか、俵万智さんが『サラダ記念日』を出してから短歌は話し言葉が圧倒的パワーを得て、短歌の作り手の層をかつてなく歴史的に分厚くした。
 その俵万智さんの最新の歌集を読んだ。『未来のサイズ』(角川書店、本体1400円)だ。本の帯には「新境地に」とあるが、なるほどなと感じた二点がある。
 戦争中の「鬼畜米英」みたいな駆り立てへの中途半端な反省とか、なお米ソ対立が残っていて学生運動や労働運動が真っ当だったのでついついその詩歌がアジテイションふうなのを嗤う風潮があった時代があった。が、今回、六年前の韓国の客船セウォル号が高校生など三〇〇人以上の死者と行方不明者を出して沈没した件を《都合悪きことのなければ詳細に報じられゆく隣国の事故》と我が国のナショナリズムに皮肉を送った上で《国、首相、社長、官僚 見殺しの方法ばかり歴史を学ぶ》と、各国に共通している権力者、権威ある者をギリリ批判した歌を作っている。
 それに、安保を巡る海外派兵の件だろう《何一つ答えず答えたふりをする答弁という名の詭弁見つ》と安部・菅コンビを撃ち、その最もの印象を《「天ぷらは和食ですよね」「繰り返し申し上げます。寿司が好きです」》と、なかなかの的を外さぬ芯のある言葉に託している。そして《この道はいつか来た道あぁそうだ茶色の朝に聞こえるノック》のアジふうなのにやんわりかつ強く迫る歌をも作っている。どうもパンチ力が不足し多数派形成に“待ち”の姿勢をしている野党の諸君、与謝野晶子、寺山修司、塚本邦雄を勉強した上で、俵万智さんに三顧の礼を尽くして戦略的スローガンを作ってもらったらどうやねん。リズムがあり、優しく迫るそれを。アジ的な歌の再検討を、当方も考え直さねば。
 もう一つ、えっ、もしかしたら、これが息子さんの父親への恋歌にして挽歌という歌歌も出てくる。“文春砲”が騒がないのは大歌人への敬意ゆえか。歌歌は、悲しさに溢れているせいか。
 二つ目の発見とは別に《見つからぬためではなくて見つかるという喜びのためかくれんぼ》の歌に、幼年時代ばかりか、青春時代、老人になってのいろいろを想起させられ、ぐすーん。







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