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評者◆凪一木
その69 決戦は月曜日
No.3470 ・ 2020年11月07日




■前回書いた、あの結婚相談所に金を落とす男は、サイコパスによる最大被害者であった。最も長きにわたって、嫌がらせのような寄生のされ方をしてきた。二人泊まりで深夜まで纏わりつき、退社後さえ便利に利用され、操作される。自宅への深夜までの電話攻撃。結局は、退職し、連絡を絶つことで、それ以上の災禍を免れ得た。
 最古透に完全に取り込まれた所長がいた。まるで頼りにならなかった。サイコパスにとっては上司であり、かつ他社(元請け)の社員であるゆえに、自分(所長)にとっては、被害がほぼない。我々最古の下にいる部下が痛い目を見ようと、とばっちりさえ来ないようにしていれば、見て見ぬふりをして、やり過ごしていた人間である。
 私は、所長を無視して、外堀から埋めていった。まずは、同僚を固める。かつての結婚相談男のような「近い関係」を、最古透とは結ばせない。被害を被害と自覚させる。ユニオンを通して、K部長に、最古の様子を筒抜けにする。
 そのうち、所長は、最古とのやり取りで疲弊し切ったのか、会社を辞めると言い出した。最古の処遇を巡り、私から責められたことも理由だろう。結局は、最古を選択し、他の有能で好ましい人材を捨てた。その付けだと私は思っている。
 退職し他社へ移った結婚相談男からメールが来た。
 ホント、法的手段に出てほしいなぁ。最古透のいうことが嘘でも嘘じゃなくても良いんです。話はいつも適当に聞いてましたし、興味のある話はあまり無い。ただ最古透は常に人を「自分の為」に、操るように発言してましたよ。人は人を操りたい生き物なんですが、あそこまで露骨に自分の為にやられると不快です。それでなくても、いつも気持ち悪いぐらい付き纏うし、夜に電話をかけてくる、とにかく疲れるから一緒にいたく無い、ただそれだけですね。正直もう会いたく無い人物です。最古透以下でもなんでも良いんですよ、ただ関わりたく無い。凪さんや銭さんが最古透を攻撃できるなら是非して欲しい。それぐらい不快な人なんです。だから、ああいう人間は、職場にいない方が良いと思います。
 だが、所長に直訴しても、所詮は元請けの他社が、下請けの派遣社員の言うことになど聞く耳を持たない。我が社のK部長は、最古透のこれまでの行状を知っているゆえに、「これ以上自分に揉め事を持ってこないでくれ」と、動かぬどころか相手にもしてくれない。
 一緒の空間にいるだけで疲れます(T工業を辞めた元社長)。職場でゾーッとするあの感覚(警備の元印刷工)。気を許して良い人じゃないです(元不動産)。常識外れのめんどい人です(子沢山の若きパパ)。そして、再び結婚相談男。
 人をいじめたり、嵌めたりするのが当たり前の人間なので、サイコパスとしか言いようが無いですね。頭のネジが相当、外れてますよ。
 とはいえ、初めから、すぐにSの特徴に気付いたのは銭さんだけだ。あとの者は「反面教師として学ぶところもある」とか、つい、心を許す人が多く、私も半年ほどは、危険性に気づけなかった。いくつかのウソも信じていた。つまりは騙されていたし、操られて、頼みごとをいくつか、させられてもいた。
 実際、工ちゃんは、操られて、「凪さんのせいで」と、K部長に電話をした。彼には、問い詰めた。そうしたら、涙ながらにこう答えた。
 「最古さんにやらされました。でも、僕はどうしたら良かったんでしょうか」
 「自分で考えろ」と言いたかった。だが、「最古の話を聞いてもロクなことがないよ」と言うに留めた。それ以後の工ちゃんは、逆に最古を異常に警戒し始めて、結局、一人一人、別のやり方で最古から離れてはいくのだが、銭さんや私が何かしなければ、最古はその後も居座ったことだけは確かなのである。
 実は追い出してからも、既に他現場へ去った工ちゃんに、以下のメールをすると、彼はなお怯えていた。
 「マーシーに対するいじめが、沖縄空手さんの時と同じで、マーシーが今辞めると言っています。そういうものを近くで見ていることも精神的に良くないわけで、工ちゃんは、この現場を出ていったのは良かったと思います。最古がやっと辞めたので、精神的には楽になりました」
 工ちゃんは、以下の返信をくれた。
 「マーシーさんでなく、標的は私だったかもしれない。そういう意味では正解だったかもしれないです。マーシーさんに関しては、折角原因の最古さんがお辞めになるのに、辞めてしまうのは勿体無いと思います。最古さんは業務については詳しい方でしたが、一定の人に当たりが強く、新しい人材が定着、育つには難しい現場になっていた気がします。抜けた事で、初めは業務面では大変だと思いますが、業務が安定すれば、人材も安定し長期的な過ごしやすい現場にすることも可能だと思います。新所長と、後任で来られた方が中心になるとは思いますが頑張ってください」
 未だに恐怖もあるのか、私への信頼も薄いのか、メールは、最古透への警戒心を解いていない内容である。
 前所長もまた、怯えていた。サイコパスが恐ろしいと思うのはそこだ。銭さんは、所長に、最古のことで詰め寄ったことがある。空気環境測定に、「ビル管」資格のない最古が不適格だ、ビル管法に違反ではないか、と。このとき所長は、本気になって、自分がお金を出して、最古にビル管資格を取らせようと、日にちを調べ、奔走していた。私は驚いた。「ああ、最古さんに、取ってもらわなきゃ」と、泣きそうな声を出して、調べていた所長。「どっかおかしいな、この人は」と思ったが、それぐらい最古に「魔力」があることも私は見知っていた。
 ビルは自社ビルで、東証一部上場の昔から今も、大学生の就職したいベストテンに入るエリート企業である。そこの社員が、三〇分前に二階会議室を使いたいと申し出てきた。ルールは前日予約である。しかし警備は、よくあることで、規定外だが認めて、もう貸出ししようとしている。そこに最古が行く。実は設備としては、急に使用されると、空調の準備ができていないために、多くは面倒なことが起きる。
 「社員の人、取り下げましたよ」「なんかしたの?」「ちょっと、嫌な顔をして横に立っていただけですよ」
 やはり最古は危険だ。
 いよいよ、こいつを相手に決戦の日が訪れるのである。
(建築物管理)







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