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評者◆休蔵
愛とは何か、信仰とは何か、そして生きるとは……
魔宴
モーリス・サックス著、大野露井訳
No.3469 ・ 2020年10月31日




■本書は「いざ野心を持つと、人はどこまで変われるか」(23頁)ということを示すためにまとめられたモーリス・サックスの自省録。なかなか読みこなすのが困難だったという印象が残った。ただ、読むことを放棄するかと言えばそんなことはできず、どことなく魅かれるものがあり、ページをめくる手を収めることは難しかった。最後まで読み進めると、珍妙な充実感があった。
 本書には彼と様々な形で絡む数多くの実在人物が登場する。その数250人以上で、巻末に人物帖がまとめられている。ただ、人物帖をいちいち見ていてはなかなか読み進むことはできない。人の名前をそれとして受け止めながら、読み進めるのが良いようだ。この多くの人物が、モーリス・サックスの人生を翻弄する。
 愛とは何か、信仰とは何か、そして生きるとは……。若かりしころの同性との戯れ、宗教への没頭とそれへの絶望。軍隊にも入る。アルコールはすぐ手の届く場所にあり、人生を狂わせる。資本主義にも身を落とし、自堕落とも言えそうな生活を送っていく。
 それでも迷い、惑わされ、モーリスは堕落する。自分の生き方とはまったく相入れない彼の生き様には、不思議と魅かれるものがあった。その理由は、正直よく分からない。
 ただ、多くの人物が関わってしまう魅力が、やはりモーリス・サックスにはあったということだろう。そんな魅力は行間から滲み出ていたようで、そんな魅力が本書を読み進める原動力になったのかもしれない。
 本書の多くの章のはじまりには、その章に相応しい1節がさまざまな文章から引用されていく。それが読み進めていくうえで気分を高めてくれた。
 ただ、この仕様がない章も。そして、1節がない章のほうが、全編のなかで占める重要性は上のような気がした。
 例えば、第20章。この章は回想に転じていた流れを時系列に戻す。そして、若者論を展開し、戦争に翻弄された状況を省みる。
 本書は20世紀初頭のフランスに生きたモーリス・サックスの自省録である。21世紀初頭の日本とは大きく違う情勢にあるが、どことなく頽廃感が漂うところは共通しているように思う。この頽廃感の要因は何か。
 本書の舞台では戦争で、現代社会の場合は拡大する自然災害だろうか。生活環境はさまざまな災厄に翻弄され、それが社会に頽廃感を漂わせ、後の社会をリードする若者社会を醸成する。頽廃感は本書を現代において読み進める重要なエッセンスのように思う。
 本書がバブル絶頂期に世に問われていたら、どのような受け入れ方をされていたのか。そもそも受け入れられたのか。本というものが世に出るタイミングの重要性も感じた1冊である。







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