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評者◆小嵐九八郎
スケールの大きい思想的な小説――パリュスあや子著『隣人X』(本体一四〇〇円、講談社)
No.3469 ・ 2020年10月31日




■二年前、二〇一八年の晩秋頃だったか、『小説現代』がリニューアルの準備のために休刊し、冷やりとしたり、かなりの熱さで期待していたが、今年の二月頃、再出発した。俺はエンターテインメントの小説が主な仕事としても、世の中の仕組みについては学生時代から心情と頭で「おかしい」と感じてきた。だから、こちらもリニューアルした『群像』が「天皇制」や「気候危機とマルクス」などの論議を載せていて、嬉しくなった。『小説現代』の方は薬丸岳さんの長編小説の『告解』を一挙掲載し、人間の持つ原罪と今の罪と罰を考えさせ面白い以上の心をくれた。
 その『小説現代』三月号には、満を持してのように長編新人賞二作が発表され、掲載されていた。そのうちの一つ、パリュスあや子さんの『隣人X』の最初を読んだら冒頭に宇宙人のSF的な話が出てきて、俺はこの手の話が苦手、放ってしまった。
 が、これでは現代小説を理解できず、ますます駄目作家になっていくという自覚はあり、単行本になったので読むことにした(詳しく記すと、パリュスあや子著『隣人X』、講談社刊、本体一四〇〇円)。
 ちゃんと読むと、冒頭のSF的話は、いきなり、格差社会の底の方のきりり働く三人の女の労働と暮らしへと移る。ベトナムからきた女のところは、実はしっかりその厳しさ、日本人の外国人労働者への態度を含め書いていて、思わず、おお。俺など、ベトナム反戦とプラスで五年ぐらい監獄に入っていたけど、現状は無知そのもの。恥ずかしくなった。そして、この三人に関わる男などが冒頭の惑星から移住民との譬喩、寓話となってきて、小説は俄に、民族と異民族、個人と他者のスケールの大きい思想的な小説の趣となる。
 作者は既に山口文子名にて『ずぶぬれて犬ころ』の映画の脚本を書き、歌集『その言葉は減価償却されました』を出している。道理で、ストーリーの展開力や発想の逞しさが脈打つ。文章に、切れ、しぶとさ、美しさがある。
 さて、今後、どう苦しむか。どう、実るか。







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