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評者◆小嵐九八郎
一首を読み終えた後にくる長い溜息――笹公人著『念力レストラン』(本体二二〇〇円、春陽堂書店)
No.3464 ・ 2020年09月19日




■評価するというのは傲慢か、評論するあたりが無難なのだろうか、そこいらの規定に躊躇う一冊に出会った。“バラエティ作品集”と呼ぶらしく、短歌、エッセイ、超短編小説なんだろうか、小説らしきのもごった煮になっている。一九四四年生まれの俺達や、それ以前の戦争を潜った世代、その後の団塊の世代にとってはマルクスの説く「資本主義による分業の止揚」の言葉が残っているはず。俺達は「今日は鉄鋼作り、明日は田畑の耕し、明後日は画家」なんて勝手な夢を抱いていたけれど、これからはこういうバラエティに富んだ作品集が強く拡がっていく予感をよこす一冊だ。
 それは、笹公人著『念力レストラン』(本体2200円、春陽堂書店)だ。
 この笹公人さんの短歌はその世界ではかなり知られていて、「日常に潜む異界」とも本人が記すように語られている。俺はもっと評価しているが、いいコピーは未だ浮かばない。
 「ガム風船の薄膜のなかに閉じ込めたあの夏の君がふいに弾ける」
 これに似た感情は成人になっても中高年になっても俺みたいな大老人になっても共有できて「良いわなあ」となる。が、油断できない。
 「怪談を欲しがる少女に食べさせるヤクザの小指沈むラーメン」
 ここいらから、鶴田浩二、高倉健の任侠映画を見てからお巡りさんと闘う世代と次の世代の断絶がある。笹公人さんは一九七五年生まれで、感性、感覚が現代であり、屋台だったかラーメンの出し汁に同じヤクザの敵の骨を入れた人物がいて、これを素材にしているらしい。一首を読み終えた後にくる読み手の長い溜息……。
 「バレンタイン廃止を叫ぶ男らのカバンに冷える母の義理チョコ」
 笑えなくなった時代にきて、読んだ後の哀しさ。
 ま、もっと、遊び、娯楽、風俗、文化の歴史へのこだわりと歴史が今に問いかけて切ない歌が他にもある。短歌の懐を、確と拡げ、深くしている。小説はひどく短いのに「ここっ」があって嬉しくなって、良い笑いをしたくなる。が……。







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