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評者◆熊谷隆章(七五書店)
かつて見たことのない猫漫画
私という猫――呼び声
イシデ電
No.3136 ・ 2013年11月30日




■もしも「私」が猫だったら。飼い猫だろうか、それとも野良猫だろうか。
 『私という猫――呼び声』は、野良猫の生きざまを激しく鮮烈に描いた漫画である。一般に猫漫画というと、飼い猫のエピソードを綴ったエッセイ風のものや、猫がマスコットキャラクターとして登場するファンタジーなどが思い浮かぶかもしれない。そうしたものと比べると、厚みのある筆致と繊細なラインで何かを刻むようにして描かれたこの作品は、明らかに異質のものとして映るだろう。
 「呼び声」はシリーズの二作目に当たる。前作は二〇〇八年に発売された。野良猫と飼い猫の対比、そして野良猫社会のタテ・ヨコのつながりを、縄張りの「ボス」交代劇を中心に描いている。飼い主以外のヒトはほとんど登場せず、その飼い主の出番も最初のほうだけ。野良として生きてきたものの矜持と、野良として生きることを決めたものの意志との激しい接触は、かつて見たことのない猫漫画として記憶に焼き付いた。
 そんな作品の第二部が、著者のブログで継続的に発表された。時々読みにいくこともあったが、まとめて読むことを楽しみにして単行本化を待ちつづけた。そして、前作からおよそ五年後に『私という猫――呼び声』という名前になって発売された第二部は、前作以上にヒトに問いを投げかける作品になっていた。
 「呼び声」は、前作よりもヒトとのかかわりの描写が少し増えている。ヒトが野良猫に餌を与える姿であったり、あるいは野良猫が餌のためにゴミを漁る姿であったり。鳴き声などの騒音も、エピソードにかかわるものとして描かれている。その存在を好意的に受けいれるものもいれば、煩わしく思うものもいる。ヒトは、野良猫との距離をどう測ればいいのか。野良猫をめぐってヒト同士でトラブルになるなど、社会問題として語られることもある。
 そんな状況を下敷きにして、「呼び声」の中盤以降は「力」を奪われた牝猫の物語が展開される。これが圧巻なのである。ここに描かれているのは野良猫の生きざまではあるが、さらに言えば、子を産み、育てるという動物としての本能だ。その姿に何を感じるかはヒトそれぞれだろう。私はその懸命さに胸を打たれ、気がついたときには涙がこぼれていた。何が正解か、を簡単に決めることはできない。問いは目の前に残ったままだ。しかし、少なくともそこには「強くて美しい猫」がいて、その姿が新たに記憶に焼き付いたのだった。
 「呼び声」は、その一冊だけでも読めるようになっているが、第一作をあらためて読むと物語の背景がよくわかる。この猫とあの猫が親子であるとか、この猫はあの猫の子供を身籠っている、とか。書店員としては是非とも一緒に並べて売りたいのだが、残念ながら現在は品切で入手困難。「呼び声」の売れ行き次第で再版の可能性が、という状況のようだ。ならば、手を尽くして「呼び声」を売るしかない。第三部への期待も込めて、猫が好きなかたにも、そうでないかたにも、強く推していきたい。







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