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評者◆秋竜山
カラス絵の大家になるには、の巻
No.3426 ・ 2019年12月07日




■もし、日本一の絵描きになりたかったら、カラスの絵を描くことである!! と、画家を志す若者にいったことがあった。「エエ!! カラスの絵ですか」と、その若者が怪訝な顔をさせていった。その後、いく日かして自分でも考えたのだろう、「やってみたいと思います」と、いった。生涯、カラスの絵である。それ一筋にカラスばっかりつきあうことになる。並のことではない。私は、できるわけがないと内心思っていた。一つのことを一生つらぬくことは覚悟以上のものがある。雨の日も風の日もである。それから、忘れたころになって、「やっぱりできません」と、若者はいった。「そーだろうなァ……」と、私は思った。私だって、そんなことはできるわけがない。それを他人にすすめるなんて無責任でもある。しかし、そんなとんでもないことをやってのける人がいたとしたら、おそらく彼は日本一のカラスの絵の大家となるだろう。一つのことをつらぬくということは,思いつきやたんなる決心だけではつとまるものではないだろう。たとえ好きな絵だからといって、絵というものは、もちろん作品次第であろうが、上手下手という単純なものではなく、いかに時間をついやしたかが勝負のような気もする。誰もがマネのできない時間を絵にかけて自分のものにするということである。百年人生の時代だという。「エッ!! この下手くそなカラスの絵が百年も続けられて描きあげたものか」と、ビックリさせなければ、その道のパイオニアにはなれないということだ。百年かけて、やっと「カァ」と鳴く一羽のカラスである。与謝蕪村の「鳶鴉図」など、カラスの絵ばかり描いて到達した作品というわけではないにしろ、それくらいの重みがあるだろう。そこが天才と凡人との差というものだ。天才と、ひかくすべきではないだろう。
 なぜ、カラスの絵かというと、カラス程、日本人の情緒の中の心にしみ込んでいるものはないと思うからである。「今日は、カラスがよく鳴くねぇ」とか「今日はカラス鳴かないねぇ」とか。毎朝ゴミ捨て場のゴミをあさるカラスを「コラ!!」と、追いはらうものの、他の動物とは違う困ったヤツだという日常性がある。
 宮崎法子『花鳥・山水画を読み解く――中国絵画の意味』(ちくま学芸文庫、本体一二〇〇円)で、
 〈日本でも烏を描いた絵画があるが、たとえば与謝蕪村の「鳶鴉図」対幅(個人蔵・日本)などが有名である。中国には元の羅稚川の「寒鴉図」(東京国立博物館)から、明の宮廷画家周文靖「古木寒鴉図」(上海博物館)、清の呉歴の山水画中に好んで描かれる群烏など、群をなす鴉(その鴉はだいたい体の一部が白い鴉である)を描く伝統が存在した。〉(本書より)
 カラスを描くのには、やっぱり水墨画であるだろう。そして、考えてみれば、水墨画は筆と墨さえあればそれだけで成立する。簡単な画材だ。絵の具などというお金のかかるものは不必要である。一本の筆と、黒い墨さえあれば、それがすべて水墨画ということだ(素人はこれだから困るというかもしれないけれど……)。毎日明けても暮れても、カラスの絵ばかり描いていると、まず女房にあいそをつかされることは目にみえる。「あんた、カラスの絵しか描けないの!!」と、ぶつくさ言われるだろう。「他の絵だって描けるんだけど、カラスの絵に決めているんだ」と、いったところで、わかってもらえるわけがない。やっぱり、カラス絵の大家はあきらめたほうがいいかもしれない。







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