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評者◆殿島三紀
人生はささやかな幸せからできている――監督 ロジャー・メインウッド『エセルとアーネスト ふたりの物語』
No.3417 ・ 2019年10月05日




■『ガーンジー島の読書会の秘密』『帰れない二人』などを観た。
 『ガーンジー島の読書会の秘密』。マイク・ニューウェル監督作品。ガーンジー島はイギリス海峡のフランス側から約20kmの沖合に浮かぶチャネル諸島の中にある。かつてビクトル・ユーゴーが政治亡命中に『レ・ミゼラブル』を書き上げた島である。また1940年から5年間、ナチに占領され、郵便も通信網も断ち切られ、孤立状態にあった島でもある。映画の舞台はちょうどその頃。謎解きあり、恋愛ありの楽しい映画だ。
 『帰れない二人』。ジャ・ジャンクー監督の最新作。チャオ・タオとリャオ・ファンの二名優を得て、21世紀に入ってから中国が経験した転換期ともいえる17年間の歴史と男女の愛の物語を描いた本作。北京五輪、WTO加盟、西部大開発、石炭から石油へのエネルギー変換、三峡ダム完成、四川大地震、上海万博、冬季北京五輪の決定。中国が経験した大きな変化を背景に、いつの時代も変わらない不器用故に切ない男女の愛を軸に据えて描いたジャ・ジャンクーの最高傑作である。
 さて、今月の新作映画は『エセルとアーネスト ふたりの物語』。アニメーション映画である。絵本「スノーマン」「さむがりやのサンタ」、老夫婦を主人公に核戦争の恐ろしさを描いた「風が吹くとき」など、優しいタッチでありながらピシッと筋の通った作品を送り出してきた絵本作家レイモンド・ブリッグズの作品だ。
 彼自身の両親の人生を描き、英国ブックアワードを受賞した「エセルとアーネスト」が原作。エセルとアーネスト、つまり、レイモンドの両親である。メイドをしていたエセルと牛乳配達夫のアーネストが1928年にロンドンで出会い、恋に落ち、結婚。郊外のウィンブルドン・パークに25年ローンで家を買い、一人息子であるレイモンドを授かり、育て、死んでいく。貧しいけれど、まじめに、楽しく生きた夫婦の平凡な日常生活を描いただけの作品である。でも、これがなぜか沁みる。
 監督はロジャー・メインウッド。『スノーマンとスノードッグ』も監督し、『風が吹くとき』にもアニメーターとして参加した作家とも個人的な親交が深い監督である。昨年65歳で逝去。
 1928年の二人の出会いから71年に二人が亡くなるまでの約40年間が描き出された本作。エセルとアーネストの夫婦の歴史と、激動の20世紀史と、庶民の日常生活の歴史がこの優しいタッチのアニメーションには描かれている。
 二人が出会った20年代のロンドンは階級社会も色濃く、キッチンもバスルームも前時代的。そんな不便で何の家具もない家を少しずつ整え、子どもが育つ頃には第二次世界大戦。ロンドン空襲。様々な苦難の中、助け合いながらも淡々と乗り越えていく二人の姿に結構のめり込んでしまう。そして、終戦。60年代には一人息子もロングヘアの若者に成長し、そんな彼が紹介するミニスカートの恋人にエセルは文句タラタラ。初めてのマイカー、初めてのテレビ。そんなどこかで見たような一コマ一コマに懐かしさを覚え、成長する息子に自分を重ね、老いてゆく両親に自分の両親を見る。世界中、どこも変わらない家族の歴史と愛に満ちた日常生活が94分のアニメーションの中に描き出される。
 1969年、居間のテレビは月を歩く宇宙飛行士を映し出す。世の中は進み、どこまで行くのか。しかし、しっかり者の妻も少しずつ老いていき、妻を優しく支える夫も弱っていく。そして……。
 ずっと繰り返されてきた夫婦、家族の姿だが、やがて、彼らは消えていく。そして、次の世代もまた同じことを繰り返していくのだろう。ラストにレイモンド・ブリッグズの現在の姿が実写で登場し、エンディング曲として流れるのは彼の大ファンだというポール・マッカートニーが書き下ろし、歌い、演奏している“In The Blink Of An Eye"だ。
(フリーライター)







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