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評者◆睡蓮みどり
カメジローの不屈の精神は今も沖縄に健在――佐古忠彦監督インタビュー『米軍が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯』
No.3414 ・ 2019年09月07日




■「今の沖縄に起きていることは、50年前、60年前と映画の中でも歴史を描いたことと実は変わっていないのかもしれない。その変わっていないことこそを表現したかったのかもしれません」。NEWS23のキャスターとして、現在は「JNNドキュメンタリー ザ・フォーカス」の番組プロデューサーとして報道の世界で着実に歩みを進めてきた佐古忠彦監督。『米軍が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯』でまさにそのタイトル通り不屈の男、瀬長亀次郎について、政治家としての側面だけでなく、生活者としての人間的な生き様について真摯に描いている。2015年の夏から取材を始め、テレビ作品で発表ののちに映画化され今回で2作目となる。不当な扱いを受け被選挙権を奪われてもなお闘い抜いた男の姿は、沖縄に暮らす人々だけではなく、多くの人の胸を熱くさせる。
 沖縄をもう20年以上取材しているという佐古監督。最初の特集制作は日米地位協定に関わるものだったという。
 「筑紫(哲也)さんが、なぜ沖縄に行くのかというときに、『沖縄に行けば日本が見える』
『この国の矛盾がいっぱい詰まっているのだ』とよく言っていたんです。安保とか地位協定とかいうとイデオロギーの話になっていくが、そうではないんですよね。負担を一番背負っている沖縄の人からしたら生活の問題なんです。生活者としての視点から『変えて欲しい』と望んでいる。どうしても密接につながってくるものですから。地位協定は安保条約に付随しているもので、それがあるからアメリカ軍が沖縄にいて、沖縄だけではなくて日本各地でも同じなのだけど、様々な出来事の中で、その地位が保全されているわけです。それは犯罪を犯したり事故を起こした人の身柄についてもそうだし、被害者となる人々への賠償額を決める作業にしてもそう。そういう矛盾が筑紫さんが言っていた通り、沖縄に行くたびに目の前に広がってくる。もともと米兵との事故で亡くなった方がいて、それにまつわる取材から日米地位協定の取材に当たって『なぜこんな風なことになっているのだろう』という、そこからです」
 テレビではなく映画という表現方法を選んだことについて問うと、「『沖縄と本土の溝』といわれる状態が続くのは、沖縄戦後史の認識の欠如が原因ではないかと思い、カメジローを通して戦後の歴史に向き合った最初のテレビ放映は夜中のドキュメンタリー番組でしたが、予想以上の反響でした。その反響は一つの動機になったし、それが『映画』という時間やお金をかけて、意志を持って来てくれる人に伝わるとさらに広がるのではないかと思ったんです。今のテレビは“お化粧”が多いと思うんです。たくさん字幕スーパーがあって、音を消していても何をしているかわかるような。視聴者の方が考えるのを、最近の言葉でいえば『忖度』しすぎているのではないかと思うほど。今回はナレーションと最低限の白い文字の字幕と音声と資料映像など、あまり“お化粧”はしていない。実際に劇場で映画を観てくださる方々の表情や、声をかけてくださってする話からは、まだこういうものを視聴者の方は観たいと思ってくれているのだ、と実感します。映画は刺激的だと思います」。
 また、230冊以上に及ぶ膨大な日記からカメジローの言葉が引用されている。その言葉はカメジローの心の底からの叫びであり、淀みなく、誇りに満ちている。今回改めて映画化するにあたり、1作目のときに読んだときとは読み方が変わっていったという。
 「今改めて見ると、新鮮にさえ映る佐藤栄作総理(当時)との国会での論戦の中でも、カメジローが『沖縄の大地は、再び戦場となることを拒否する。基地となることを拒否する』と発言します。その原点が日記の中に書かれているんです。映画の冒頭にも使った日記の言葉で、沖縄戦のことを『恨みを飲んで殺された仲間たちの魂に報いる道は何か』と問いかける。まさにその魂に報いるために一本の道を進んできたのだと思います。さらに、言葉の強さ、深さ、苦難が訪れても必ず先を見据えながら考えて行動していていく姿。それはまさに彼が『不屈だから』なんです。『闘うこと、抵抗の意味は怒りの爆発で、憎しみではない』という言葉が、加藤周一さんの『抵抗の文学』を読んだ後の感想とともに書いてあって、それは国民への愛情から生まれると。権利者として権利を奪われていることへの納得のいかなさや疑問ですよね。『基地撤去の運動は単なる平和運動ではない、主権の問題だ』という記述がありますから。例えば、断水したときの話でも、主権を奪われているとどんなことが起こるのか、生活者としての目線でのエピソードが書かれているんです。床屋に行って髪を切るけど『水が足りないから、あとは銭湯で洗ってね』とそのぶん銭湯のお金を引いてくれたと。そういうものが主権を勝ち取っていくのだというエネルギーに変わっていったのだと思います」
 その政治家として、生活者としてのカメジローの声を担当するのは俳優の役所広司さんだ。「役所さんには、役所さんの感じるままにカメジローを演じてもらいました。カメジローの奥さんのフミさんが与論島を見ているときの夫婦の会話がふっとそのままそこにあるようなリアリティや、娘さんとのやりとりの中で小さな子どもにちょっと困っている感じだとか、いろんなカメジローがいる中で、演じる、というよりまさに『人間カメジロー』です。まあ、ちょっとかっこいいカメジローでしたけど(笑)」。また1作目でも音楽を担当した坂本龍一さんについては、「もともとテレビでやったときの作品をご覧になっていたようで、沖縄に思いを持っていらっしゃる方です。1作目のときもカメジローの人生と沖縄の悩みを表しているかのようなものすごい曲を作っていただいた。今回は、カメジローが闘ったその先に見えるもの、希望も感じられるような、後世を見つめる眼差しのような人間カメジローの表情につながるような曲を書いていただきました」と語る。
 1作目から2作目の本作が公開されるまでには、沖縄の象徴的な存在である翁長雄志さんが亡くなり、玉城デニーさんが今の知事を勝ち取った。「でも、変化があるようでいて、沖縄は変わっていないと思うんです。むしろ自己決定権を求める声はどんどん高まっていている。だけど選挙をやったときの結果には一つ一つちゃんと反映されていて、そういう意味でいうと、何も変わっていないのではないかと思います」。劇中で、カメジローは「自分がいなくても必ずや第二のカメジローが現れるだろう」という確信に満ちた言葉を語る。まさに変わらずにその精神が受け継がれているということだろう。「県民大会の取材に行っても、カメジローワードに溢れているんです。『不屈』『屈しない』というプラカードを持った人を多く見かける。カメジローの不屈の精神は今の沖縄にも健在だと思います」。佐古監督は、柔らかい物腰のなかにも力強さを感じさせる言葉を一つ一つ丁寧に選んでくれた。
(女優・文筆家)

(※インタビュー日・8月20日、東京・赤坂のTBSテレビにて)







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