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評者◆小嵐九八郎
コスモポリタンたらんとする人に――里中満智子著『マンガ 旧約聖書 1・2・3』(中央公論新社、本体各一五〇〇円)
No.3043 ・ 2011年12月24日




 六七歳の老人になるまで三つの本に苦しんだ。一つは、ヘーゲルの『美学講義』だ。でも、六十代になって長谷川宏氏の訳で、やっと解りかけた。もう一つは“商い”のために読むしかなかった『資本論』だ。とどのつまり賢くないのだろう当方は、価値形態論のところで、亜麻布が上衣と交換されるのも、その逆も同じだろうに、なんでくどくどとこんなにと、マルクスは、どえらい人間と思っていたから七転八倒した。八十九年のベルリンの壁が人人の手で崩壊した直後に、醒めて読み直したら、使用価値が交換価値と化ける全体の中で、やっと、すんげえとなったけど、遅い。もっとも、Vol1の終わり、「資本制的蓄積の歴史的傾向」は現代の本工と臨時雇用者のぬきさしならぬことを記していて、不朽であるとなお考える。Vol3の「利潤率の傾向的低落の法則」に至っては、今の“先進諸国”の苦悶と、“後開発国”への産業移転の根っこを突いている。ただねえ、デカルト以来の近代合理主義の枠内で、科学や工業を信仰して、限界そのもの。
 苦難の本のもう一つは『旧約聖書』。イエスが信じ、格闘し、ついには背くとも映る中身だ。今なお、イスラエルの人人の大多数が信仰し、実践している書である。文意は解るけれど、感情として、神(という言葉も、みだりに口にしては罪となるぐらい崇高、絶対、唯一ですわな)のあまりの怖さ、瑣末な求め、なるほど僕でしかないとしても人の生きる喜びの空しさに滅入るのだ。
 そこへ――というより、作者のあっけらかんとした解釈を含め、物語として我ら凡人に楽しませ、かつ、知を与えてくれる漫画三冊が大震災・原発危機発生以後、順次発行され、この秋、完成を見た。里中満智子さんの著『マンガ 旧約聖書』(中央公論新社、三冊とも一五〇〇円+税)である。日本人も好きな『ヨブ記』のヨブの友人達の誠ある忠告への神の答えの謎すら、解らせてくれて、さすがブッダについても描いている人だ。先の大戦中に“現人神”を拝んだキリスト者、コスモポリタンたらんとする人は、読んだ方がいいに決まってます。
(作家・歌人)







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