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評者◆秋竜山
記憶にある浮気マンガ、の巻
No.3393 ・ 2019年03月30日




■外国の無人島マンガに、こんなのがあった。絶海の孤島に一本のヤシの木と二人の男。その一本のヤシの木が根元から切られており、倒れている。一人の男が斧を手にしている。そして、もう一人の男にむかって「ヤシの木を切ったのは私です」と、いう。あえていわなくても、斧を持っている男が切ったのに間違いないのである。それを、わざわざいっているのである。このマンガの見どころとして、わざわざいっているのが面白いというのである。その、どこが面白いのか。まったく面白くないという人もいれば、やたらと面白いという人がいる。この斧でヤシの木を切り倒した男は実に正直者である。いわなくてもわかるのに。そこが面白いのである。これがもし、「ヤシの木を切ったのは私ではありません」と、いったとしたらどーなのか。どー見ても、手にしている斧で切ったばかりなのに、これは嘘つきである。この嘘が通用するだろうか。では、こーいうのは、どーだろうか。一人の男が斧を手ににぎっている男にむかっていう。「お前、切ったんだろ」。斧を手にしている男が答える。「記憶にありません」。記憶にないといっても、今切ったばかりのなまなましさの残っているヤシの木である。それを「記憶にありません」も、ないものだ。
 片田珠美『自分のついた嘘を真実だと思い込む人』(朝日新書、本体七六〇円)では、
 〈嘘に気づいて相手を問い詰めようとするときにしばしば返ってくる反応を挙げながら、どのように対処すればいいのか具体的に述べていきたい。まず、一番多いのが「記憶にない」という答えだろう。これは最も賢明な防衛だ。前に話したことと矛盾しているとか、一貫性がないとか、時系列的におかしいという過ちを犯さずにすむのだから。しかも、作り話を考えるための心理的負荷もかからないので、心穏やかでいられるはずだ。〉(本書より)
 「記憶にない」という名セリフは、政治家がよく使う手であるからあまり印象がよくない。
 〈たとえば、「先週のX曜日に、○○ホテルに行ったわよね」と妻が夫を問い詰めようとしたら、「そんなこと、覚えてないよ」という答えが返ってきたような場合(略)〉(本書より)
 夫の浮気を妻が問い詰めるほうが、政治家の国会答弁よりもよっぽど面白い。夫の浮気といえば、昔は大人マンガの華々しき題材であったように思う。マンガ家がアイデアにつまると浮気マンガにしてしまうのか、と思わせる程、浮気マンガが多かった。と、いうのも、そのような雑誌が多かったせいもあったからかもしれない。夫の背広のポケットから、旅館などのマッチが出てきたと、妻がせめまくるのである。そんな時、夫は「記憶にない」などと、いっただろうか。「記憶にないって、それじゃあ、この旅館のマッチはなんなのよ。一人で旅館へ行ったとでもいうの。相手は誰よ」と、いった内容のマンガであったが、それが面白くて笑えたものであった。今の時代、まず旅館のマッチというそのものが存在しないだろう。なんだか急に昔の浮気マンガを見たくなってきた。







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