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評者◆秋竜山
ゲリとの闘い、の巻
No.3389 ・ 2019年03月02日




■宮本武蔵といえば巌流島で佐々木小次郎と決闘して勝った二刀流の剣豪であった。私が宮本武蔵を知ったのは、もちろん子供の頃であったが、当時子供マンガ(児童マンガといっていた)からであった。小次郎との戦いの当日、武蔵は巌流島へ約束の時間に遅れていって、小次郎をイライラさせた。それを武蔵の心理作戦とよくいわれるが、実はそうではなかった。日本史の謎検証委員会編『最新研究でここまでわかった 日本史 通説のウソ』(彩図社、本体八八〇円)で、
 〈本書では、これまで明らかになった歴史の真相を、人物、事件、戦争、文化、制度という5つのテーマに分類して紹介していく。どのテーマも、テレビや映画、小説で脚色されて実態が異なることが多いため、読み進めていただければ、意外な真相を知ることができるはずだ。タイムマシーンでも発明されない限り、確固たる真実を知ることはできないが、残された史料や史跡によって、真実に近づくことはできる。〉(はじめに)
 武蔵が巌流島へ遅れていったのは、別に心理作戦をねらったわけではなかった。それは同情すべき理由があったからであった。そのマンガの内容はそれであった。面白マンガというかギャグ・マンガであったから笑わせるのが目的であるが、子供の私は、大いに笑い転げたのであった。作者名は忘れてしまったがマンガの内容はおぼえている。武蔵は巌流島へ行かなくてはならないのにもかかわらず、その日、ひどいゲリに見まわれてしまったのであった。便所を出たり入ったり。もう、いいだろうと小舟に乗るが、すぐ便所へ駆け込まなくてはならない。それがあまりにもひどい。決闘どころのさわぎではない。かくして、武蔵は遅れてしまった。そのことについて小次郎にわびるわけにはいかなかったのである。と、いう、マンガであった。本書では、〈宮本武蔵は巌流島の戦いで強さを示したというのはウソ〉と、ある。宮本武蔵はゲリにもかかわらず巌流島で強さを示したからこそ宮本武蔵であり、剣豪武蔵で名声が高いのである。
 〈巌流島の決闘は、日本史に残る名勝負の一つである。〉(本書より)
 で、
 〈結論からいえば、現在伝わる巌流島の戦いは、ほとんどがフィクション。(略)後世の創作である。〉(本書より)
 私の生まれ育った伊豆の海辺の砂浜は、ある意味では巌流島として有名であった。当時の映画のロケ地として巌流島となっていた。その砂浜の近くの高台のバス道路を観光バスが通るたびに、「皆様、左下をごらん下さい、あれが有名な……」と、バスガイドが説明した。バスの観光客は「ヘー」とか「ハー」とかいって窓から顔をのり出して、その巌流島の武蔵と小次郎の映画で戦った場所を眺めたものであった。通説では、ということでは、みんな信じている。
 〈二刀流の武蔵と、長刀を操る小次郎の決闘。勝負は意外な形で決った。(略)この勝利によって武蔵は最強の剣豪として名声を獲得し、細川家に召抱えられることになったのである。〉そして〈真相〉としては〈結論からいえば、現在伝わる巌流島の戦いは、ほとんどがフィクション。後世の創作である。〉(本書より)
 子供マンガだからといって馬鹿にはできないのである。通説として武蔵はゲリがひどかったということにはなっていない。しかし、マンガの内容が必ずしも間違っていたとは思えない。ウソから出たマコトということがある。真相として、いっそのこと、ゲリで遅れたということにしたらどーだろうか。







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