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評者◆秋竜山
香水といえばモグラ、の巻
No.3386 ・ 2019年02月09日




■シックと感動。川田順造『〈運ぶヒト〉の人類学』(岩波新書、本体720円)。以前、このコーナーで取り上げていると思う。何回、繰り返し取り上げてもいいだろうと思う。と、私は思うほど驚きの中でみんなに知ってもらいたいことだ。とらえかたによっては、笑ってしまうようなことである。「あの、モグラが!!」と、まずモグラに対する思いが変わってしまうだろう。モグラ叩きなど、とんでもないことである。モグラが御先祖さまであるということ。私の、ではなく、人類の、である。そんな地下生活をしているモグラを足でふみつけているということである。あってはならぬことかもしれない。が、どーにもならないことでもある。サア、どーしましょう。
 〈ここで、猿人にいたるまでのヒトの進化のあとを、「地下生活者」原モグラにまでさかのぼって、簡単にふり返ってみよう。大爬虫類が荒れまわったジュラ紀(約二億年前~一億四〇〇〇万年前)には、地下生活でその難をしのんでいた「原モグラ」は、大爬虫類の絶滅後、地上に出てはみたものの、今度は同様に地下から出て地上生活をはじめた、繁殖旺盛で攻撃的なネズミの類の猛威にさらされることになった。〉(本書より)
 まるで、この場面を映画で観ているようだ。もちろん記録映画である。〈原モグラの別の類は、木に登ってネズミの難を避けた。その子孫が、霊長類となり、やがてヒトになったといわれる。〉私たちは人間だ!! なんて、いってるけど、私たちはモグラだというべきではないだろうか。「バカなことをいうな」と、いわれるかもしれない。そんな時は、「お前もモグラだ」と、いってやりたい。「モグラ以外のなにものでもない。やいモグラ君」とね。「その証拠に、お前は子供の頃からよく木に登っていたではないか」と、ね。
 地下から出たモグラの死体を見ることがある(とはいえ、そんな死体のモグラを見るということはマレであるだろう)。地下で死んでいくモグラを見るということは不可能である。人間の死が地にうめられていくことをモグラは知っていた。そして、自分自身で地の中で死んでいくモグラたちである。モグラに線香の一本もあげたい気持だ。どこでもいい、地面に一本の線香をたてて、手をあわせたいものである。
 〈地下生活では、視覚や聴覚よりは嗅覚が、生きる頼りになる、(略)私たちは少し古くなった食べ物が、まだ食べられるか知りたいとき、反射的に匂いを嗅ぐ。そんなとき私は、大昔、原モグラだったころの記憶が甦ったような気がして、可笑しくなる。〉(本書より)
 匂いを嗅ぐという行為が、原モグラからの進化であるとは、驚きである。このことを知ってしまうと、これから、匂いを嗅ぐたンびに、モグラのことを思い浮かべてしまう。たとえば、「いい、コーヒーの香りだ」と、嗅いだと同時に頭の中にモグラが浮かびあがってくる。嗅ぐといえばモグラということになる。香水といえばモグラということだ。美女にむかって「いい香りですね」と香水をほめたつもりが「いいモグラですね」なんて、言ってしまったらどーしましょう。地下へもぐりたいとか。







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