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評者◆志村有弘
岡山晴彦の友情の絆を綴る童話劇(「Pegada」)――丸山修身の古い証文などから一家の歴史の謎解きをする小説(「文芸復興」)、孤愁・寂寥感を綴る詩歌群
No.3362 ・ 2018年08月04日




■最初に、岡山晴彦の戯曲童話「今様お伽噺 麦の穂」(Pegada第19号)を紹介したい。登場するのは山に住むネズミ(ネズ吉)、町に住む三匹のネズミ、老猫の虎三、その猫を飼っている母と少年春夫。春夫の父は七年前の大地震で死に、祖父は行方不明。ネズ吉は粉挽き小屋に住む又六爺から貨物電車で町へ行くことを教えられ、町で三匹のネズミと出会う。自分を救い養ってくれた春夫母子に恩返しを願う虎三の頼みで、春夫母子に春夫の父の焼き物の備忘録『鼠志野』や野菜の種を届け、ネズ子を嫁として山へ帰る、という内容。記憶喪失の又六爺が春夫の祖父であることも示され、廃校に住むネズミが「友情の絆」という言葉を使う。登場するネズミだけでなく、人間も全て心優しい。一方、町の「廃校」の寂しさもあり、今はやりの「忖度」の言葉も見える。震災の傷を随所に示す哀しい作品でもあるが、心温まる力作。
 小説では、丸山修身の「古紙の裏から」(文芸復興第36号)が、推理小説を読む面白さ。「私」は、長野に住んでいた兄の一周忌のおり、姪から渡された古い書き付けの謎を読み解いてゆく。曾祖父に借金の願いをした子爵。祖父が昭和十五年に日本勧業銀行から五千円を借りた謎。五千円の借金は敗戦後のインフレで弁済されていた。「良いことは文書になんぞ残さない」という名文句もある。古紙と共にあった位牌の一人ひとりの人生も知りたい。佳作。
 高原あふちの中篇小説「人間病患者」(あるかいど第64号)の登場人物は、それぞれ個性的だ。最初に小野田家の父親(博)が登場するが、娘の海音(劇団員)が主役であるらしい。海音の祖父母は離婚し、父母もギクシャクした間柄。弟はニューヨークでピアニストをしている。海音が名前を隠して祖父のもとでアルバイトをすることになった。登場人物が妙な夢を見たところから場面が展開する手法が面白い。「不幸の先取り」を「一種の人間病」という香久山の言葉も印象的。祖父(香久山)と海音の触れ合いがいい。題名もうまい。ホームドラマになり得る作品。
 浅岡明美の「昼下がりの客」(創第12号)は、老人の罪の意識を綴る短編小説。「陰険」で「卑猥な言葉」を投げつける復員兵Mが濁流に流されたとき、「ぼく」(後の老人)は、差し出した手を強く引かれて放してしまい、Mの遺体は、翌朝下流で発見された。老人と喫茶店主の母との青春時の思い出。老人の心に沈殿し続けた呵責。綺麗な文章で展開する良質の好短篇。
 福島遊の短篇「ひじり」(あてのき第45号)は、作中に『日本往生極楽記』などに見える賀古(加古)の教信上人の生きざまを記す。教信伝の部分は作者の創作が加わっているようだが、自由に生きたいと願う自分の考えと教信の放浪の姿を重ね合わせているらしい。爽やかな読後感が心地好い。
 エッセーでは、岡谷公二の前号からの連載「山川方夫の葉書(二)」(飛火第54号)が、友人山川の書簡を紹介し、岡谷自身も含めて山川・「三田文学」を視座とする貴重な文学交友録を伝えている。
 詩では、「コールサック」第94号掲載、みうらひろこの「ブランコ」、二階堂晃子の「夢枕」、東梅洋子の「うねり」など3・11の震災・津波・原発事故による、癒されることのない心の傷を綴る作品群。麻生直子の北海道の歴史・伝説を踏まえた「二月の広野」・「激震の野に」(潮流詩派第253号)に注目。使用されているアイヌ語が効果的だ。
 短歌では、丹治久惠の「月と海鬼灯」(さて、第3号)と題する「かすむ眼とおぼろの記憶を道連れに明日も生きる生きゐるが華」に哀しさと切なさと納得と。森水晶の寂寥感漂う「真夜中の羽音のごとく君が泣く私の胸の寂しさのなか」(吾亦紅第2号)、老愁を歌う安村壽子の「望郷の想いは父母のありてこそ浮浪の兄負う妹の因果」(同)の歌が心に沁みる。石川幸雄の写真と短歌で構成した図鑑短歌双書「Birds of prey」(猛禽歌集)は、華麗・優美の極致を示す芸術品。鳥の瞬間の表情を見事に捉えたカラー写真と短歌を掲載。フクロウの項には「瞑想に耽るが如くと妄想す梟眠る神社の杜に」という、鋭い自己凝視の歌。
 同人雑誌連載の作品が単行本になるのを知ると、嬉しい気持ちになる。木村咲の小説『赤い土』(「九州文學」連載)は、一人の女性が厳しい異国の地で生き抜いてゆく姿を抒情豊かに展開させている。
 「浮橋」、「文の鳥」が創刊された。同人諸氏の健筆をお祈りしたい。追悼号ではないが、「民主文学」第663号に三浦光則が昨年十二月に死去した伊豆利彦、「天荒」第60号に岡崎万寿が二月に死去した金子兜太について(連載の上)、その熾烈な文学魂を綴る。ご冥福をお祈りする。
(相模女子大学名誉教授)







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