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評者◆殿島三紀
死に至る王を描いたスペインの鬼才――監督 アルベルト・セラ『ルイ14世の死』
No.3353 ・ 2018年06月02日




■『マルクス・エンゲルス』『モリのいる場所』『ロンドン、人生はじめます』などを観た。
 『マルクス・エンゲルス』。今年はマルクス生誕200年ということで、なんと映画になってしまった究極のコンビ。20代の彼らを描いたのはラウル・ペック監督。若きマルクスとエンゲルスが活躍した1840年代のヨーロッパはエンゲルスの「イギリス労働者階級の状態」にも活写されている通り、産業革命が生み出した社会構造の変化が大きな格差をもたらした時代だ。いま第4次産業革命とでもいうべき波に巻き込まれている私たちにとっては、時代の合わせ鏡として必見の映画か。
 『モリのいる場所』。モリとは熊谷守一画伯のこと。シンプルな描線の素朴な画風。彼の絵を見た昭和天皇が「これはいくつの子どもが描いたの?」と訊ねたという逸話も映画に盛り込まれている。豊島区千早の家に97歳で亡くなるまで45年間暮らし、その家と庭から外へ出ることがなかった画伯。本作は昭和49年、結婚52年目を迎えた画家とその妻の夏の一日を描いたちょっとユーモラスな映画。監督・脚本は沖田修一。
 『ロンドン、人生はじめます』。ジョエル・ホプキンス監督作品。ロンドンはハムステッド・ヒースの森に住むホームレスと高級マンションに暮らす未亡人が恋に落ちるお話。ハムステッドといえば超高級住宅地なのだが、なんとこのホームレス、周囲の人の協力で自分が住んでいた森の小屋とその土地の所有権を手に入れ、一夜にして大資産家に。こじゃれた高齢者のラブコメディに仕上げてあるが、これは実話だそうだ。
 さて、今回紹介する新作映画は『ルイ14世の死』。ルイ14世と聞いて思い出す映画は『王は踊る』(00)。ゴージャスな映画だった。バレエを愛し、自らも踊り、ヴェルサイユ宮殿を建て、“太陽王”とも称されるルイ14世。とにかく華やかな王様というイメージが強い。ところが、カタルーニャの生んだ鬼才アルベルト・セラ監督はヴェルサイユ宮殿でも「朕は国家なり」のルイ14世でもなく、ベッドの上で日ごと死につつある国王の数週間を描き出した。王の苦しみは1715年8月9日に始まり、9月1日に終わるが、その死はフランス史において最も長い72年という治世の終わりを意味していた。
 本作が初の日本公開作となる監督。これまでにも風車の出てこないドン・キホーテ物語『騎士の名誉』(06)やカサノヴァとドラキュラが出会う『私の死の物語』(13)といった物語のお約束を打ち砕くような作品を作ってきた。
 本作でも「あのきらびやかなルイ14世はどこに?」と思わず口走りたくなる人は多いだろう。セラ監督が制作の源としたのは、宮廷の生活を詳細に記録したサン=シモン公の「回想録」と廷臣ダンジョーが書いた「覚え書、別名ルイ14世宮廷日誌」。〈8月9日狩りから帰った国王は疲れ果てていた。翌日、王は左足の痛みを訴える……〉。映画はまさに覚書のように綴られる。
 王を演じるのはトリュフォーはじめヌーヴェルヴァーグの監督たちに愛された御年74歳のジャン=ピエール・レオ。王宮のベッドに横たわり、左足の壊疽に始まりただ死にゆくだけの日々を演じる。死につつある王と、無為に侍る医師や側近、貴族たち。「もっと光を!」とか「是非に及ばず」といったかっこいい最期の言葉もなく、王宮の薄暗い寝室で生きながら腐っていくような数週間。なんとも俳優泣かせの役柄である。
 修証義という曹洞宗のお経がある。「無常忽ちにいたるときは国王大臣親昵従僕妻子珍宝たすくる無し、唯独り黄泉に趣くのみなり。己れに随い行くは只是れ善悪業等のみなり」。フランスのお話に不釣り合いではあるが、映画を観ながらなぜかこの一節を思い出してしまった。
(フリーライター)







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