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評者◆殿島三紀
やがて笑える時も来る――イヴァーノ・デ・マッテオ監督『はじまりの街』
No.3325 ・ 2017年11月04日




■『ブルーム・オブ・イエスタディ』『問いかける焦土』『ソニータ』等を観た。
 『ブルーム・オブ・イエスタディ』。『4分間のピアニスト』のクリス・クラウス監督、脚本作品。ナチスの犯罪を下敷きにしながら、ボーイ・ミーツ・ガールものに仕上がっている。ナチスものと聞けば観客は身構え、深刻な顔をするというのがお約束。ところが、本作ではホロコースト犠牲者の孫娘と、加害者を祖父に持つ男が出会ってドタバタする。だから、どんな顔をすればいいのか戸惑ってしまうのだが。実は監督の祖父もナチだったという。戦後72年、ナチ映画も今後代替わりし、切り口も変わっていくようだ。
 『問いかける焦土』。ヴェルナー・ヘルツォーク監督作品。湾岸戦争時、クウェートで砂漠の油井が燃え上がる。真っ黒な煙を紅蓮の炎がつき上げ噴き上げるニュース映像に、これが地獄か、と絶望的な気持ちになった。本作は1991年の湾岸戦争で発生した大規模な油田火災の消火活動、破壊された国土、虚脱した女性や子供、戦争が残した傷跡、そうした凄まじい状況を鬼才ヘルツォークが撮影したドキュメンタリー映画。ワーグナーやマーラーの重々しい響きと共に地獄を描き出した54分。
 『ソニータ』。ロクサレ・ガエム・マガミ監督作品。マイケル・ジャクソンが理想のパパだという16歳のソニータはアフガニスタンからイランへ逃れてきた不法難民の少女。彼女たちを保護する子ども支援団体の教室を舞台にして人身売買にも等しい強制婚への怒りをラップにして歌う。が、自身も結婚させられようとしていたソニータの前に拡がった意外な運命。客観性を第一とするドキュメンタリー作品の監督もその人生に大きく関わった感動的な作品。
 そして、今回紹介する新作映画は『はじまりの街』。主人公は夫のDVから逃れ、13歳の息子とトリノへ向かう女性である。ローマ発トリノ行列車の洒落た座席の色にそぐわない疲れ果てた様子に彼女の苛酷な経験がにじむ。女性とみれば声をかけてくる陽気でお気楽なイタリア男がDV? と、意外な感じがつきまとうが、DVは世界共通なのだ。
 監督はこれまでも家族をテーマに、社会的弱者に寄り添ってきたイヴァーノ・デ・マッテオ。ドキュメンタリーも手掛けていた監督である。DV家庭に育った娘のクラスメートが急に学内で荒れるようになったことをきっかけに、綿密なリサーチやインタビューを重ね、本作を作った。激しい暴力シーンはなくとも家庭内暴力のリアル感、恐怖、その後の難しさが迫る。DV夫にも優しい時はあり、自分が我慢すれば何とかなるとどこかで思ってしまう妻。そして息子にとって父は父。まして思春期である。そんな母子が新しい土地へ旅立つ……。
 美しいトリノの秋を背景に母子と彼らを取り巻く心優しい人々が描かれる。トリノ駅に母子を迎えにきて、部屋まで提供してくれる親友。元サッカー選手の訳あり店主。見知らぬ土地で孤独な息子が想いを寄せる東欧出身の幼い娼婦。さらには、やっと生活に一息つけるようになった母子が休日に訪れる国立映画博物館。晩秋のトリノの街も準主役ともいえる役どころだ。
 人生の重荷を背負った大人たち、大人の階段に足をかけた少年。陽気で明るい親友も、親切で優しい店主も、そして、夫から逃げ出した妻もそれぞれの問題を抱えながら生きている。泣いたり、愚痴を言ったりはしないでけなげに一生懸命に生きているのだ。生きていれば、その内、雨もあがるし、陽の当たる日もあるだろう。ラストで青空に浮かぶ気球をバックに流れるシャーリー・バッシーの力強い歌声に希望が湧いてくる。シャーリー・バッシー、『007ゴールドフィンガー』の歌声の主だ。人情映画は寅さんだけではなかった。
(フリーライター)







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