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評者◆殿島三紀
新しいのに懐かしいラ・ラ・ランド――デイミアン・チャゼル監督『ラ・ラ・ランド』
No.3293 ・ 2017年03月04日




■『エリザのために』『エゴン・シーレ 死と乙女』『たかが世界の終わり』『ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ』を観た。
 『エリザのために』。監督クリスティアン・ムンジウ。ルーマニアの映画である。娘を卒業試験に合格させようと違法なコネとツテを使い、奔走する親の姿を描いた作品。第69回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞している。ルーマニアはあの激しい流血の日々を経て新しい国づくりを着々と進めているとばかり思っていた。だが、今この国にはびこるのはチャウシェスク時代と同じコネや裏工作や袖の下。革命の成れの果てを見てしまった。
 『エゴン・シーレ』。ディーター・ベルナー監督作品。エゴン・シーレといえばウィーン分離派の中心的な人物であると同時に激しい女性遍歴と退廃的な画風で知られる28歳で夭折した画家である。数多くのモデルと浮名を流したが、その中でとりわけ大きな存在だったのが公私にわたってのパートナーであり、彼の表現世界におけるミューズであり続けたヴァリ。彼女との日々を絡めたシーレの奔放な半生を描いた作品。
 『たかが世界の終わり』。グザヴィエ・ドラン監督。19歳で監督デビューし、26歳にして早や6作目。一過性の美男監督かと思いきや、とんでもない。新作発表ごとに進化を遂げている。12年ぶりに家族に会うため帰郷したルイ。彼が帰ってきたのは自分の死期が迫っていることを家族に告げるためだったが、彼らとの間には見えないバリアが。溶け込むことも受け入れることもできない家族という名の他人を描き出す……。
 『ウィーナー』。ジョシュ・クリーグマン&エリース・スタインバーグ監督作品。舌鋒鋭く政敵に迫るアンソニー・ウィーナー下院議員。妻は長年ヒラリー・クリントンの右腕を務めた人物だし、「勇気ある議員」と讃えられ、オバマ大統領に続く民主党の若手として注目されていた。ところが、彼の恥ずかしい性癖がその政治生命を絶った。その2年後、NY市長選に立候補。変態野郎と罵られながらも支持を集めるウィーナーだったが……。
 今回紹介するのは『ラ・ラ・ランド』。ミュージカル映画である。ミュージカルならなんといっても音楽とダンスが良くないことには始まらない。『レ・ミゼラブル』とか『シカゴ』とか話題作がなかった訳ではないが、『サウンド・オブ・ミュージック』以降ミュージカルへの門戸を頑なに閉ざしていた自分。だが数十年ぶりに浮かれてしまった。監督は1985年生まれのデイミアン・チャゼル。2015年アカデミー賞を含む50を超える映画賞を受賞した『セッション』から2年目。待望の新作だ。
 『ラ・ラ・ランド』。なに? このウキウキ感。1.ロサンゼルス、主にハリウッド地域の愛称。2.陶酔し、ハイになる状態。3.夢の国、という意味らしい。渋滞中のハイウェイでイライラしながら車に乗っている人々が突然歌って踊り始めるという冒頭からして圧倒される。ハイウェイ・パトロールが道路封鎖。その限られた時間内で一発撮りした圧巻の群舞は『ウェスト・サイド・ストーリー』も真っ蒼だ(例えが古くて恐縮です)。しかし、弱冠30そこそこのチャゼル監督が憧れたのはもっともっと昔のミュージカル。そう、『雨に唄えば』なのだ。往年の名画で観てきたからなのか、行ったことなどない街の景色なのに妙に懐かしい。売れないジャズピアニスト・セブと女優志望のミアが出会う裏通りの古びたジャズクラブ。二人が星空を舞う幻想的なダンスは『理由なき反抗』にも出てきたグリフィス天文台のプラネタリウムが舞台。ミアがバイトするハリウッドの映画スタジオのカフェ。どれもこれも既視感でいっぱい。少しビターな大人の恋も良い。久しぶりにすごいミュージカルを観た。
(フリーライター)






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