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評者◆殿島三紀
絵画になった映画――小栗康平監督『FOUJITA』
No.3231 ・ 2015年11月21日




■『わたしの名前は…』『犬に名前をつける日』『裁かれるは善人のみ』などを観た。
 『わたしの名前は…』。ファッションデザイナー、アニエスベーの初監督作品。タランティーノ監督『パルプ・フィクション』等、話題の映画で衣装をデザインするだけでなく、自分自身の映画製作会社も設立するほど映画好きの彼女。今回はアニエス・トゥレブレの本名で監督デビューした。12歳の少女が言葉も通じないトラック運転手と旅をするロードムービー。だが、彼女は父子相姦の被害者だった……。異分野出身監督にありがちな抽象的自己満足的な作品になっていない点はさすがアニエス。ただの映画好きではない。
 『犬に名前をつける日』。山田あかね監督。殺処分寸前の犬や猫を救い出し、震災で置き去りにされた動物たちを保護しているボランティアの人々を4年にわたって取材した。その200時間を超える映像を編集し、小林聡美が山田監督を演じる形で参加したドキュメンタリードラマだ。口をきけない動物たちの瞳が訴えかけてくるようで切ない。
 『裁かれるは善人のみ』。アンドレイ・ズビャギンツェフ監督作品。カンヌ国際映画祭脚本賞、ゴールデングローブ賞外国語映画賞等受賞、アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされ、各国の主要映画祭を席巻した作品である。とことん暗く悲劇的な本作は2008年にアメリカであった実話・キルドーザー事件に着想を得て生まれた。巨大企業の土地再開発に反対する溶接工が企業、市役所、警察、コロラド州を相手に闘ったが、功を奏さず、絶望。ブルドーザーを装甲車に改造し、市役所などの建物を次々と破壊した事件。その絶望に辺野古が見えてくるといったら現実に寄り過ぎだろうか?
 今回紹介する新作映画は『FOUJITA』。『泥の河』の小栗康平監督が藤田嗣治の人生を映画化した日仏合作映画である。フジタといえば5回の結婚やパリでの苦節と開花の時代、そして、日本帰国後に描いた何点もの戦争画。その人生のどの部分をとってもすごい映画ができそうに思える。
 フジタは最初の結婚直後に新妻を一人残し、渡仏した。モジリアーニやスーチンらと交流を深め、最初の妻とは4年で離婚。順調に画業を重ね、あのおかっぱ頭と丸メガネで恋愛もお盛ん。細い輪郭線と乳白色の女性像で、パリにフジタあり、と絶頂の時代だった。ところが、戦火が欧州に迫り、帰国してからはそれが一転。陸軍省嘱託画家として満州へ行き、ドラクロワも真っ青な勇猛な筆致で戦争画を描いたが、その作品ゆえに戦後は戦争画家と呼ばれ、激昂。フランスに戻り、日本国籍も抹消している。激しい人生だ。
 そこから小栗監督が切り取ったのは、1920年代のパリと40年代の日本での疎開の日々。パリでの恋愛と遊興の日々。その時代の絵は細い輪郭線と乳白色の優しさに満ちる。一方、疎開地津久井郡では五番目の妻との静かな日々。しかし、その作品は圧倒される程の濃厚な色彩と激しい筆致である。生活と作品の特色が真逆なのだ。
 薄暗い小栗ワールド。時代の暗さを暗喩しているとかいうのではなく、目を凝らして見ていると暗さの中に本質が見えてくるという手法としての暗さか。映画自体が絵画といっても差し支えないほど。恋や画業に遍歴を重ねた波瀾万丈な生ではなく、フーフーという愛称で呼ばれ、成功に酔いしれていたフランス時代と、戦争画というジャンルの中に従来の画風とは全く違った作品をぶつけていった日本時代とに分けた対比的な構成。時代の寵児でもあったフジタの恋の遍歴に焦点を当てるでもなく、ハデハデしいアバンチュールや成功の美酒もほの暗い世界に落とし込んでいる。静かな田舎町での疎開の日々にはこれまでに観たことのないフジタがいた。
(フリーライター)






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