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評者◆殿島三紀
もっと子供を大事にしないと  エドワード・ベルガー監督『ぼくらの家路』
No.3223 ・ 2015年09月19日




■『夏をゆく人々』『バレエボーイズ』『天空の蜂』『ぼくらの家路』などを観た。
 『夏をゆく人々』。32歳のアリーチェ・ロルヴァケル監督作品。1968年以降の政治の季節が終わった時代。といっても政治の匂いはしない。エトルリア文明の遺跡が残るトスカーナの田舎町で昔ながらの養蜂業を営む一家のひと夏を描く。時代に乗り遅れた不器用なドイツ人の父親と共にミツバチの世話をする長女ジェルソミーナ。永遠の時の流れと現在と、少女の夢見る将来を併存させた作品である。
 『バレエボーイズ』。オスロのバレエスクールでレッスンに励む3人の少年の12歳から16歳までの4年間に密着したドキュメンタリー。将来はプロのバレエダンサーに、という夢を持つ彼らは同じ学校に通う親友同士。多感な時期を生きる3人をカメラは追う。監督はケネス・エルヴェベック。あどけない顔の少年たちが4年間で精神的にも身体的にも立派な青年に成長していく姿には思わず知らず感無量。
 『天空の蜂』。東野圭吾原作のミステリー小説を堤幸彦監督が映画化。乗っ取られた超巨大最新鋭ヘリコプターが原子力発電所の真上に静止させられ、燃料切れを待つ――タイムリミットは8時間。史上最悪の原発テロに立ち向かう人々のドラマだ。20年前の原作だが、この時期に映画化されたのは良いタイミングか。手に汗握らせながら、今ここにある不安感を焙りだす。
 そして、今回紹介するのは『ぼくらの家路』。子ども受難の現在。街に出れば、犯罪にまきこまれ、家庭や学校でも子どもたちは息もたえだえだ。本作はある夏の3日間、10歳と6歳の兄弟が母を探す日々を描いた作品。その母親は実は男とどこかにしけこんでいるのだ。兄ジャックはまだ靴の紐も結べない弟を守り、細い肩を精一杯怒らせて生きる。この兄、そんなに可愛いくはない。無責任な母親に代わって家事をし、弟を世話しながら必死に生きているので、あどけなさもない。金髪巻き毛の天使のような弟がいつも一緒なので余計にそう感じさせるのか。しかし、この子がとても良い。本作で一躍映画作家としての地歩を確立したエドワード・ベルガー監督。ジャック役を求めてベルリン中を探し回り、もうこれは諦めるしかないという時に現れたのが、このイヴォ・ピッツカーだった。
 『誰も知らない』(是枝裕和監督、2004年)、『ある子供』(2005年)、『少年と自転車』(2011年、ともにダルデンヌ兄弟監督)など、子どもが子どもを作ってしまった、というか、親が大人になりきれず子どもを育てられない、という映画は多い。この少年たちの母親も大人になりきれない大人だ。といってもアルコールや麻薬の依存者ではないし、息子たちに暴力を振るうこともない。ただ未だにティーンエージャーなのだ。『誰も知らない』でYOUが演じた無責任だが優しい母親を思い出していただければいいかもしれない。自分の遊びや恋人づくりに一生懸命で、ジャックに家事も小さな弟の世話もおしつける。これって立派な育児放棄だ。しかし、彼女は子どもたちを怒鳴りつけはしないし、福祉局の役人にも息子をかばって断固反論する。だからこそ、ジャックはママを助け、けなげに働くのだけれど。でも、ジャックはまだ10歳。家事と弟の世話の両立は無理だ。給湯器の温度設定を間違えて弟を火傷させ、その結果、養護施設に入所させられることにもなってしまう……。
 ここに登場する大人たちは役立たずだが悪人ではない。母の男狂いも、良い男と結婚してあわよくば現状打破を図ろうという思いから出たものだ。だが、思いがけないラストが観客を待ちうける。10歳で大人になっていくジャックの背中は一回り大きくなっているようだ。ああ、しかし、もっと子供を大事にしないと。
(フリーライター)






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