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評者◆伊達政保
渾身のライフワークが10年の時をかけて完結――船戸与一著「満州国演義」全9巻(新潮社)
No.3200 ・ 2015年03月28日




■船戸与一渾身のライフワークとも言える大作「満州国演義」全9巻7500枚(新潮社)が、10年の時をかけて完結した。『風の払暁』『事変の夜』『群狼の舞』『炎の回廊』『灰塵の暦』『大地の牙』『雷の波濤』『南冥の雫』『残夢の骸』、各題名だけでもオイラ圧倒されてしまう。昭和3年の張作霖爆殺事件から昭和6年満州事変、昭和7年第1次上海事変、満州国建国、昭和11年2・26事件、昭和12年盧溝橋事件、第2次上海事変(日中全面戦争へ)、昭和14年ノモンハン事変、昭和16年太平洋戦争突入、昭和20年ソ連軍満州侵攻、日本無条件降伏、昭和21年天皇人間宣言、満州通化事件に至るまでの激動の二十余年を、満州を主な舞台として、架空の主人公敷島家四兄弟、外務官僚の長男、元馬賊で自由人の次男、憲兵将校の三男、インテリであった四男、彼らの視点を通して描ききったのだ。また四兄弟を狂言回しのごとく操る特務機関員の存在も忘れてはならない。この作品の冒頭に描かれた慶応4年8月戊辰戦争会津鶴ヶ城下のエピソードが、完結巻で解き明かされようとは。
 この作品は歴史の流れを追った通史小説としても、先の戦争の歴史を再確認することが出来る。そこには著者があとがきで触れているように戦争の形態の変化が如実に現れているのだ。軍隊間の近代戦は総力戦となり、前線も銃後も差別なき殲滅戦の時代となった。そこにはもはや浪漫主義のつけ入る隙はないと。しかしそればかりではない。軍部や政府の意思だけではなく、国民の気分、マスコミの煽動、全てが戦争に突き進む過程をも、こと細かに描き出している。日本の今の状況と比較してみると、その細かな過程一つ一つが現実に思い当たってしまうのだ。長州出身の著者は、完結巻で日本の海外膨張主義、侵略主義の原点として長州の吉田松陰を引用しているが、帝国主義者の全てが、最初から厳然とした帝国主義者として存在するわけではない。四兄弟もまたそれまでの自分の思想信条にかかわらず、状況の中で知らず知らずのうちに帝国主義者となり、大日本帝国および日本軍のために働いていくことになったのだ。
 敗戦から70年、現在の日本はこの戦争の時代を忘れきっている。いや、現政権(何と長州安倍政権)は忘れたふりを装って同じ経過を歩もうとしている。それに対し、現天皇は新年にあたっての言葉で、「この機会に満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、今、極めて大切なことだと思っています」といわざるを得ない状況となっているのだ。その意味でも、『満州国演義』は多くの人に読まれなければならない作品である。







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