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評者◆岡 一雅(MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店)
改めて見直されるべき大平正芳の外交理念
大平正芳――理念と外交
服部龍二
No.3163 ・ 2014年06月21日




■1970年代から80年代の日本。総理の椅子を巡り「三角大福」と並び称された4人の政治家が激しく競い合っていた。
 機を見るに敏な「三」=三木武夫。大胆な発想と行動力を持つ「角」=田中角栄。エリート然とした「福」=福田赳夫。彼ら3人に対して、本書の主人公「大」=大平正芳はさしずめ理(ことわり)の人だろうか。「鈍牛」という渾名、「あーうー」という独特の語り口が今なお印象に残る。首相の激務に党内抗争の激化が加わり、史上初の衆参同日選挙期間中に急逝した宰相の、外政家としての事績を中心に描いた評伝。
 大平が外交に大きく関わった時期は、日本が戦後復興から高度経済成長を経て先進国の仲間入りをした時代だ。この時代の日本外交は大きく2つの課題への対処が求められていた。一つは「戦後の総決算」として、日韓関係正常化や日中国交回復といった、隣国との関係修復であり、もう一つは石油危機後の先進国としての対応や環太平洋連帯構想への取り組みといった「将来への展望」に分けられるだろう。
 外相として携わった日中交渉は、双方の意見の相違(謝罪を巡る表現や賠償、尖閣諸島の領有権)だけでなく、アメリカやソ連を含んだ東アジアのパワーバランス、中華民国(台湾)との利害関係の調整と、その余波を受けて揺れ動く国内の政局といった、様々な要因が複雑に絡み合うものであったが、首相だった田中と連携し見事まとめあげることに成功した。「大平の生涯で最大の功績」と評されるものであり、戦後の日本外交にとってもまさに画期をなす出来事でもあった。
 そして総理就任後に示した環太平洋連帯構想では、アジア太平洋地域重視の姿勢をいち早く打ち出している。そこには、大平の描く安全保障の形――安保条約のような軍事力だけに頼るのではなく、近隣各国との「経済協力、文化外交等必要な外交努力を強化して、総合的にわが国の安全をはかろうとする」理念が存在した。
 アメリカを「同盟国」と呼び、日本外交の基軸として重視しながら、中国を始め太平洋を共に囲む隣国たちとの友好的な関係構築を図る。大平のこの外交方針は日本の首相としては珍しく(!)視野が広く、且つ現実的なものであり、後に〈アジア太平洋経済協力(APEC)〉として結実したことで、その見識の高さを示した好例と言える。
 自宅の書庫に収まりきらなくなった蔵書を地元選挙区に送り、市民に開放する程の読書家であり、聖書を愛読書の筆頭にあげるクリスチャン。首相就任後、政府部内に9つの政策研究会を立ち上げた際、メンバーの学識者に「反自民、反権力であって結構です」「もっとも、自民党の方向と一致すれば、なお結構ですが」と微笑みながら語ったエピソードからは、そういったバックボーンを支えにキャリアを重ねてきた、ステーツマンとしての自信が垣間見える。
 「大平は、引っ込み思案であるように見えることによって目だつ人物であり、人の後に追随するように見えることによって人を指導する人物だった」(E.ライシャワー)
 分かった気にさせるワンフレーズ・ポリティクスや、扇動的で排外的なスピーチが少なからぬ支持を受け、安全保障の在り方が問われる今この時期だからこそ、彼の見識とそこから導きだされた外交理念は、改めて見直されるべきものではないだろうか。







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