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評者◆深緑野分インタビュー
ミステリーズ!新人賞佳作受賞者による少女たちをめぐる謎に満ちた五つの物語――受賞後三年を経て確かな成長を実感。カメラワークのような描写力が読者を圧倒
オーブランの少女
深緑野分
No.3140 ・ 2014年01月01日




『オーブランの少女』を出版した
▲深緑野分(ふかみどり・のわき)氏=1983年神奈川県生まれ。2010年に「オーブランの少女」が第7回ミステリーズ!新人賞佳作に入選しデビュー。
ミステリーズ!新人賞佳作受賞者による少女たちをめぐる謎に満ちた五つの物語――受賞後三年を経て確かな成長を実感。カメラワークのような描写力が読者を圧倒

 二〇一〇年度に行われた「第七回ミステリーズ!新人賞」で佳作を受賞した表題作など五篇を収録した、深緑野分氏の初単著『オーブランの少女』。美しい花々に彩られた庭園オーブランの秘密をはじめ、すべての作品が少女たちを軸に展開する作品集だ。
 「第七回の選考委員には好きでよく読んでいた桜庭一樹先生のお名前があって、ちょうどそのタイミングで〝オーブラン〟の設定で書きたいことがあって応募しようと思いました。もともとは長篇で書こうと思っていたのですが、それでは締め切りに間に合わないので、プロットを整理し直して短篇として仕上げました」
 新人だからといって侮ることなかれ。読者はその完成度の高さに必ず驚くはずだ。「女の子が一つ所に集まった話が好きです。そこで何かが起きるとしたら……というところからひらめいた作品」。徐々に立ち現れる不穏な空気が充満した瞬間に物語世界が幻想から現実に反転する巧みな構成には、目を見張るばかりだ。
 極めて幻想的なのに、はっきりとその情景をつかむことができる。描写力の源は、映画や絵画に求められる。「『怨霊の森』(ラッキー・マッキー監督)や、中でも『エコール』(ルシール・アザリロヴィック監督)に影響を受けています。最初は映画の脚本家になりたかった。映画が大好きな両親のもとで育ち、小さいころから本よりも映画を好んでいました。映画の世界で生きていくことが当たり前と思っていましたから、修行のように映画を観て、自分の中に取り込む作業をしていました。また油絵もやっていたことがあります。同じ対象をさまざまな角度から描き、どれが一番面白く見えるかというように、物語を視覚的に考えることが多いので、感覚としてはカメラワークに近いものがあるかもしれないですね」
 ヴィクトリア朝のロンドンを描いた「仮面」や、昭和初期の女学生を描いた「片想い」など五篇とも舞台設定が異なるのも特徴の一つ。まるで複数の作家の作品集のようにバラエティに富んでいる。「興味がいろいろなところに散るタイプなので。でも実は日本から出たことないんです、パスポートも持っていませんから」とほほ笑む。およそ三日で書き上げたという「大雨とトマト」は、最も短い一篇でありながら不思議な印象を心に刻む。というのも舞台を指示する言葉はおろか、固有名詞が一切登場しないのだ。「どこの国でも誰にでも起こりうることなので、人生の分岐になる話として、読んだ人にぞっとしてもらいたいと思って、設定を固定したくなかった」
 五篇五通りの世界観を提示しながら、その底流には常にブラックな要素が見え隠れしているのが面白い。「ブラックな短篇も好きで、国内だと泡坂妻夫先生の作品や、群ようこさんの『いいわけ劇場』、海外だとスタンリイ・エリン、ロアルド・ダール、ヘレン・マクロイの作品が凄く好きですね。毒を込めようと意図して書いているわけではなく、個人的には楽しく書いているのですが、普通に書いて提出すると「黒いね」と言われる」とのこと。
 深緑氏は、「自分が前面に出るタイプの書き手ではなくて、テーマに対してどう寄り添うか、どういう接し方をすれば面白くなるかということを毎回考えています」と自己分析。物語のネタは常に幾つかあって、「自然に、うにゃーっと枝葉が分かれて、〝今これ、育っている、書きごろ〟みたいな(笑)ことがよくあります」。
 佳作を受賞してからの三年間を経て、確かに自身の成長を実感している。「読者が読んだときに、どう思うかということを真剣に考えるようになった。それまでは勢いで自分の好きなものばかりを書いていました。この三年間で、自分が思ったことを人に伝えることの難しさを理解すると同時にそのコツがつかめた」と話す。当初は編集者の指示を受けて修正するのがなかなかできず、最初から書き直していた。「どこを生かしてどこを直せばいいかまで気が回らなった」と振り返る。しかし書くことを続けるうちに、「だんだん足りないものが見えるようになってきた。どのディテールを足せばいいのかが見えてきたのです。読者に気を配りつつ、自分の書きたいことを書けるようになったということかな」。
 プレッシャーもプラスに作用した。「オーブランに匹敵するものを書かないといけない。〝佳作がいちばん良かったね〟というのは悔しいですから。「氷の皇国」でインパクトを与えられればいいなと思っていたので、最後に持ってきました」。「氷の皇国」は湖に流れ着いた首なし死体をめぐって、ユヌースクという国に翻弄された少女の運命を浮き彫りにする一篇だが、その比類なき〝インパクト〟は、直接ひもといて確認してほしい。
 「どの短篇も趣向が違います。CDアルバムを聴くように、好きな作品が一つでもあれば嬉しいです」。次回作は、本作とは全く異なる方向性をもった長篇になる予定という。また一人、新作が待ち遠しい作家がここに誕生した。







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