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評者◆細川早苗(ブックス・みやぎ)
「聴かせる本」であり「魅せる本」
人形遣いの影盗み
三木笙子
No.3135 ・ 2013年11月23日




■デビュー作、『人魚は空に還る』を読んだのが五年前。新人作家さんなのに、店頭での初速が早く、気になり読んでみた作家さんだ。お客様に感謝するとともに、五年も経っていたことに、自分でも驚いた。というくらい、いつも新鮮な気持ちでこの作家さんの本は読んできた気がする。
 今回オススメするのは、デビュー作シリーズ第三弾でもある三木笙子『人形遣いの影盗み』(創元推理文庫)である。
 心優しき雑誌記者と超美形の天才絵師、二人の青年の帝都探偵物語と帯に謳われている。ぜひとも表紙絵の二人を確認していただきたい。絵がとてもきれいで、文庫版と単行本版の表紙の違いを楽しめるのもいい。いろんな物や事が混沌とした時代背景の中で起こる事件が、二人の活躍によって解決されてゆくのだが、これがなんとも言えず、温かいのだ。
 三木さんの作品を読んだ際に書き留めてきた感想を読み返してみた。
 〈気持ちの上で、納得のいく解決〉
 〈人の思いの核心に触れる、切なく大きななにかを感じさせてくれる〉
 〈心が落ち着きどころをみつけられる〉
 〈忘れていた何かを、ふと思い出させてくれる〉などとある。
 この『人形遣いの影盗み』では、〈そばにいて気にかけてあげられたら、それ以上の幸せはないと自分では思っていても、相手はそれを望んでいない事に気づいたり、気づかず傷つけたり。気付かせない事がやさしさだったり〉と書いてあった。
 ここで一文ご紹介したい。第一話「びいどろ池の月」より。
 「人がもっとも大切だと信じて選び取ったものを、最後まで背負い通して欲しいと思うからだ。それが正しくとも、正しくなくとも、孤独に終えるかもしれない人生の終わりに、これだけは失わなかったと信じることができる拠り所を持ち続けてほしかった」
 こんな芯が強く細やかな人物描写が、読んでいて、心にぐっとくるわけだが、主人公の二人を取り巻く人々もかわいらしさ満点で、魅力的だ。なんたって「僕はルパンを目指してる。だからホームズがいると面白いんだけどな」などと言う怪盗がいたり、空き巣がどうにも改心してしまう大家がいたり。そして、こちらもいいなぁと思うのが、情景描写である。
 よく歌謡曲などで、「聴かせる歌」などという言い方がある。三木作品は「読ませる本」と言いたいところだが、なにかぴんとこない。「聴かせる本」であり「魅せる本」であると言いたい。雑巾掛けをする足音が聞こえ、茄子尽くしの食卓に夏が見え、影を盗まれ、心が映る。とにかく三木さんの「間」が、私には合っているのだ。日々の生活の中でちょっとタイムスリップして、ぜひとも味わっていただきたい空間である。
 『人形遣いの影盗み』の文庫と共に、三木さんご本人から朗報が届いた。丸善&ジュンク堂さんで、第一回「この作家さん応援します」に選ばれ、全国展開しているというのだ。
 〈物事は、人の心持ちひとつで良い方にも悪い方にも転ぶ。そんなとき、自分をもう一度確認し、何かを決めたときに解決へと導かれてゆくような気がする。〉
 なんてことを考えさせてくれた三木笙子さんの本が、じわりじわりと全国へ広がっていったのだ! 他店のフェアとはいえ、もう個人的にうれしい! 心の中で「おっしゃー、来た~三木笙子!」と叫んだ。






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