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評者◆パルナ書房・久野敦史氏
京都の有名書店はなぜ閉店に追い込まれたのか──書店の永遠のテーマ「棚と経営」を考える②
No.3116 ・ 2013年06月29日




▼京都のJR丹波口駅前の書店・パルナ書房が4月25日に閉店した。出版業界では「時代小説のパルナ書房」として名が通った同店がなぜ閉店することになったのか。代表取締役の久野敦史氏は、日本のマクロ的な社会状況の変化やインターネットの普及、近代家族という問題が相まって閉店という「決断」を余儀なくされたと言う。その話を聞く一方で、書店が抱える永遠のテーマ「棚と経営」という問題も改めて浮き彫りになった。ここではパルナ書房の生い立ちから閉店までの経緯を辿りながら、「棚と経営」について考えてみたい。

◆第2部 時代小説のパルナ書房

 ハードカバーの単行本をすべて返品してコミック売り場に――という改装計画がきっかけで、2006年から提案型書店の道に踏み出したパルナ書房は、書籍売り場全体で「娯楽としての歴史コーナー」を展開し始めた。
 「20坪という小さなスペースを逆手にとって、これまで別々の分野で陳列されていた書籍をひとまとめにして、歴史というテーマで棚全体を括ってしまうという試み。それぞれのテーマの関連付けで棚の面白さを演出するとともに、大型店との差別化と自店の特徴付け、複数冊購入による客単価のアップが狙い」
 歴史棚は、単に日本史や時代小説の書籍を並べているわけではない。「古代史」においては古事記や日本書紀といった神話、宗教の書籍。「平安~中世」にかけては、王朝文化の中で古典なども展開。歴史資料としての側面もある万葉集、百人一首の関連書も一緒に配列した。また、日本史を語る上では、中国、朝鮮半島史も欠かせない。孔子の論語、司馬遷の史記など漢文のコーナーも設置した。展開事例としては、明治時代が舞台の『坂の上の雲』(司馬遼太郎)を中心に、「黒船来航から日本海海戦勝利まで日本近代化50年の軌跡」といったPOPを掲げて、関連書を陳列した。
 「歴史棚づくりには、まさに寝食を忘れて没頭した。毎晩夜中まで、選書、新書、文庫を中心に、すべての版元の目録に目を通した。睡眠は毎日3~4時間程度だった」
 敦史氏の猛勉強の成果もあって、「経済学者のポール・クルーグマンの本とヒトラー時代の経済政策について書かれた本を並べて置いたら、『こういう本をセレクトして置いてあるところはない』と京大生がすごく共感してくれた。パルナ書房の棚が好きだと言ってくれた学生もいた」と評価を得ていたようだ。
 歴史棚では歴史関連の文庫や時代小説が売れた。学研や新人物往来社などのA4判の歴史ムック、山川出版社の『日本史歴史年表』などのほか、気軽に読める古代史の文庫も売れた。ただ、新潮選書などの専門書は売れなかったという。

●時代小説に特化文庫売上60%増

 そこで、06年秋に時代小説の文庫、さらには一般の新刊文庫やテレビドラマ化された文庫など売れ筋も正面平台で展開するなど、駅前書店のセオリーに則って文庫本の比重を大幅に増やした。すると、文庫の売上が一時、前年比60%増となる月も出てきた。
 「歴史棚と時代小説の棚では客層が違うことに気がついた。私自身は歴史棚に関心があったが、専門書を買う客は、品揃えが豊富な大型書店を利用する傾向にある。20坪の小さな書店に、ましてガケ書房や恵文社一乗寺店という有名店が立地する左京区にあるわけでもない書店に、客は専門書が置いてあるとは思わなかったようだ。また、JR丹波駅前自体が大学生や大学教授などの知識人が多く訪れる立地でもなかった」
 07年に入ると、時代小説のアイテム数がさらに増え、時代小説のパルナ書房と言われる所以の「独自棚」が出来上がった。棚では、司馬遼太郎、池波正太郎、藤沢周平の御三家とともに、昨今の時代小説ブームの火付け役である佐伯泰英のほか、鈴木栄治、風野真知雄などの新しい作家の作品などを作家別・シリーズ別にまとめて展開していった。
 時代小説をそれほど読みこんでこなかったという敦史氏だったが、自店の売れ筋シリーズを把握して、シリーズものの最新刊は発売日にきちんと揃え、既刊のフェアで新規顧客の獲得を図るという販売の基本を愚直に繰り返した。さらに、主力客が高齢者ということを考慮して売場も工夫。高齢者は小さな文字が見えづらいため、以前購入した巻を間違って買ってしまうケースが散見された。そこで、間違えて購入しても「返品交換しますから安心して買ってください」とPOPで一言添えた。さらに、大きな文字で1巻、2巻と書いた帯を文庫に巻いて販売するようにした。
 「時代小説は中高年のコミック。佐伯泰英の『居眠り磐音』の1巻を勧めたら、後日に全巻購入してくれるなど売上は面白いように上がっていった。京都市内の書店の時代小説の棚を見て回ったが、正直、『品揃えはうちの敵ではない』と思った」
 07年9月には、時代小説の棚がNHKでも取り上げられるほどに。敦史氏も、版元営業や他の書店員に「いつでもおいでよ」と言えるほど店に自信が持てるようになった。
 その後の話ではあるが、12年秋には、光文社の書店販促通信「鉄筆」に、「『書き下ろし時代小説文庫、販売のセオリー』を教えます!」と題して時代小説の売り方を寄稿するまでになった。「光文社は坂岡真の『鬼役』シリーズを7カ月連続発売としながらも、一般文庫と同じような販売展開だった。私の店では2巻目発売以後も既刊と同時展開すると、3巻目から爆発的に売れた。そこで、『7カ月連続刊行帯』と1巻目からの並列販売を書店にアナウンスするようにと光文社にアドバイスしたら、販売セオリーを書き下ろすことになった」。

●3年連続売上増

 文庫本を中心に書籍が好調な売上を上げるなか、04年~06年までは書店全体の年間売上はプラスで推移した。その裏には、05年に近隣に大型スーパーが出店し、客数増加というプラス要因もあった。97年からマイナス成長に転じ、今も減少を続ける出版業界。既存書店も毎年落ち続ける売上に頭を悩ませていた中で、個店の3年連続プラス成長は全国的にも珍しい例と言えるだろう。
 ただ、順風満帆はこの頃までだった。07、08年の年間売上は2%強のマイナスに転じた。だが、07年頃は「現場ではそれほど売行きが悪いとは感じなかった」という。日販帳合書店の全国平均ほどの落ち込み幅ではなかったことが、そう思わせたのかもしれない。
 08年には近隣のオフィスビル・京都リサーチパークに書店が出店するという情報が飛び込んできた。若者やビジネスマンが利用する京都リサーチパークに対し、パルナ書房は地元の高齢者を顧客の主軸に据えて、時代小説に特化した棚作りを進めていく。その甲斐あって、時代小説を主体とした文庫の売上は08年に入っても毎月20%増という数値を叩き出した。
 しかし、近隣のスーパーで雑誌コーナーが大きく展開され始めた上、道路を挟んだ向かい側と京都リサーチパーク内にコンビニエンスストア(CVS)が立て続けに出店。そのため、売上構成比で5割を占める売上の柱「雑誌」が食われてしまった。文庫が好調といっても、その売上シェアは10%程度。シェアの高い雑誌やコミックスの減少をカバーできるものではなく、08年後半のリーマンショックによる消費不況も追い打ちをかけ2年連続の減少となった。

●書籍テコ入れも売上2ケタ割れ

 09年、親しい書店の社長と当時の日販の京都支店長から、「駅前は効率がいい立地なので、雑誌とコミックスと文庫とベストセラーを置くという棚づくりをせざるをえない。セレクトショップのような店をやるなら、それが成立する立地でやらないと駄目だ」と厳しい指摘を受けた。その助言を受けて、棚替えに着手。歴史棚を時代小説棚に全面転換し、テーマ別文芸書コーナーとして展開していた店の一番奥の棚全面に移動。歴史棚があった所には新刊・ベストセラーの一般文庫を、京都本コーナーは新刊・ベストセラー書籍の棚に変えた。雑誌のマイナスを書籍と文庫でカバーしようという考えで、書籍・文庫の売上上位20%の商品を集中的に集めて販売するスタイルに転換した。
 だが、売上は前年比10%減と下げ幅は広がってしまった。
 「競合店が出る前から売上が落ち続けてしまった。これでは太刀打ちできない」と思った敦史氏は移転再出店、もしくは閉店を考えた。だが、前出の書店の社長は「ふたば書房は雑貨、恵文社一乗寺店はセレクト。書店専業では、このさき生き残れないとチェーン店のうちでさえ思っている。まして、個人店のきみが生き残れるわけがない。移転して再出店するのは止めたほうがいい」と釘を刺された。

●「移転か閉店か」

 この時から閉店するまでの間、敦史氏は移転して森羅万象を歴史で語るような書店を出店しようかと悩み続けた。自らが作り上げてきた歴史棚で勝負するには、やはり顧客のレベルの高い地域でという思いがあったからだ。しかし、結局は移転を断念した。家族従業員であり、コミックや女性誌などの雑誌を担当していた実妹と、母が反対したからである。「出店コストはどうするのか」「採算はとれるのか」、出店の際には当然検討されるべきことである。敦史氏はその問いかけに、即座に返事をすることができなかった。
 10年10月、ついに京都リサーチパークの1階にTSUTAYAが出店した。2ケタ減で売上が落ちていく。12年暮れ、売上減少によって敦史氏と実妹の月給はゼロ円となっていた。13年1月、それでも敦史氏は「時代小説に絞り込んで、全国に名前を轟かせるよう努力しなさい。そこで生き残りの道を考えなさい」という書店の社長の言葉を胸に、さらに時代小説に絞り込んだ店づくりを推し進めようと考えていた。
 そんな矢先、実妹から「給料が出ないから、資格をとって別の仕事に就く。もう店には出られない」と宣言された。「昨年12月は他店がコミックスなどで比較的に好調だったが、パルナ書房はコミックスも含めて2ケタ減だった。コミックのノウハウもないし、妹の代わりにフルタイムのアルバイトスタッフも雇えない。20坪といえども、午前10時から午後11時まで1人で運営するのは厳しい」。
 閉店を決意した。
(第2部了)







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