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評者◆秋竜山
脳は曖昧さをどう感じるか、の巻
No.3099 ・ 2013年02月23日




 川畑秀明『脳は美をどう感じるか――アートの脳科学』(ちくま新書、本体九五〇円)。本書では、美とアートと脳科学。脳はどのような美やアートが好きか。脳科学者の出番か。三万五〇〇〇年前に洞窟壁画が描かれている。それも、動物たちの動きを描いているということだ。
 〈壁画の動物たちの多くは横向きに描かれている。地中海の海中から発見されたコスケール洞窟では、斜め前方から描いたバイソンの絵が見つかっているが、洞窟壁画に描かれた動物のほとんどは横を向いて描かれている。〉(本書より)
 まず、動物の全体像は横から見た姿だろう。幼児が描く動物は横向きである。動物の動きというのは前か後ろである。横に歩いたり飛んだりはしないだろう。原始人は動物を追いかけたり、追われたりした。
 〈壁画に描かれた動物たちは、描いた彼らの視覚像そのものの現われではなく、彼らの知識あるいは記憶の現れだったのだ。〉(本書より)
 私がもっとも驚いたことは、彼ら(原始人)がすでに漫画を描いていたということである。漫画の初めは洞窟壁画であったのだ。そもそも、漫画というものは、〈見せたがり芸術〉であって、描いたらはやく誰かに見せたくてしょうがないのである。壁画漫画もそーだったんだろう。
 〈壁画には文脈や物語がある。ウシを追いかけるライオンや、バイソンの群れの行進など、それらは、運動や移動が描かれているキネティックアートだともいえる。漫画では、動きの表現にアクション・ラインが用いられる。動く物の後につけられている線の数や長さ、輪郭線の重なりなどで速度感を表現する。ショーヴェ洞窟に描かれたライオンは、獲物に襲いかかるその瞬間を、首から顔にかけての部分を幾重にも重ねて描かれている。〉(本書より)
 漫画では現実に眼に見えない線を描くことによって動きをあらわす。歩く人物や動物に砂ぼこりを描くなど有名である。漫画特有の表現である。目をまわしている目のまわりに星がいっぱい飛び出している。とか、ハッ!! と、ひらめいた頭の上に電球が光を放っているなど、漫画にそのような記号のようなものがいっぱいある。ふるえているのを表現するには、ふるえているような線を描けばよい。洞窟壁画家は漫画家であった。などと、洞窟壁画家にいったら「なんですか、漫画って?」なんて、いわれそうだ。〈想像をかき立てる曖昧さの表現〉という項目も面白い。
 〈ゼキは、美術作品において、「一つの真実ではなく複数の同等に有効な真実を同時に表現する」ことを曖昧さとよんでいる。一七世紀の文学者、ラ・ロシュフーコーは「美しいものの中には、あまりに完成されているより、荒削りなままのほうが、はるかに精彩を放つものがある」という。(略)柱米朝は、「すべて味わいは、十分な説明をしないで相手にわからせた時の方が、味が良いものです」と言う。〉(本書より)
 想像力はリアリティをつくり上げる。描き過ぎ、喋り過ぎでないほうがいいということだ。絵の前に立って、「ハテ、この絵はどういう意味なんですか」と質問され、「あなたの想像力におまかせします」。答えになっているような、なっていないような。その曖昧さがいいんだ。脳は曖昧さをどう感じるか!! そういえば、日本人は曖昧さが得意な国民とか……。







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