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評者◆青崎有吾
体育館で殺人事件が起きるからこのタイトル以外ありえない──一つの物から謎が解かれる国名シリーズへのオマージュ
体育館の殺人
青崎有吾
No.3088 ・ 2012年12月01日




 第二十二回鮎川哲也賞受賞作『体育館の殺人』。雨が降る中、密室状態の体育館で放送部部長が刺殺される。高校を舞台に、その死の真相を理詰めの展開で解き明かす本格ミステリだ。著者の青崎有吾氏は、現在明治大学の三年生。ミステリ研究会に所属する氏は、同賞には初めて応募したそうだ。「受賞後の改稿作業はもちろんタイムリミット付きでしたから、それは地獄のようでしたね。夏休み前の試験最終日が、原稿提出日の締め切り。レポートを一個落としましたが、単位は取れました」と現役学生ならではのエピソードをにこやかに話す。
 「元々、本格ミステリが好きだったので、いつかは鮎川賞に応募したいと思っていました。大学に入学してから、二作品ほどライトノベル関係の賞に応募したことがあります。一応ミステリだったのですが、やっぱり選評には「ライトノベルではなくて、ミステリのほうがいい」と書かれていました。落とされたわけですが、そのために鮎川賞へという流れになりましたから、その意味では感謝ですね。実は身の回りで応募したことを教えていたのは、ミステリ研究会の人たちだけ。でもメンバーと切磋琢磨することなく、恥ずかしいので、勝手に書きました。全然見せてはいないです。タイトルも教えていなくて、一次選考の結果が発表されたときに、みんなにバレました。ミス研ですからちゃんと本書を購入してくれまして、今は読書会でけなされています」と苦笑い。
 タイトルににやりとする読者も多いだろう。有名な〝館〟シリーズを彷彿とさせることから、刊行前から話題や憶測を呼んでいた一作だ。
 「執筆当初から学校を舞台にしようと決めていました。ついこの間まで高校生でいろいろ記憶が残っていたことと、女子高生を出したかったから(笑)。教室ではありきたりなので、体育館で殺人事件が起きたら面白いなと。体育館で殺人事件が起きるから、申し訳ないなと思いながら、それ以外に付けようがありませんでした。本が出版されるまで、このタイトルは「冗談でしょう」とか「別のタイトルになるんでしょう」と言われましたね」
 物語の舞台となる「神奈川県立風ケ丘高校」の見取り図は、「母校を完全に参考にしました」とのこと。また「旧体育館がボロボロで、それがとても印象に残っていて」と話す建物の姿は、表紙の中で“傘”を手にして振り返る女子生徒の背後に描かれている。イラストレーターが実際、ロケハンに行って写実的に再現したそうだ。そしてその傘が、事件の解決を導く重要な物証。こちらを見つめる女子生徒のイラストも人気のようだが、その細部にも注目してほしい。
 「本書でやりたかったのは、クイーンです。国名シリーズへのオマージュ、パロディをやりたいと思いました。なるべく少ない手がかりで、何か一つの物からすべてが解決されるという物語を作りたかった。そこで体育館にありそうな、何でもない物から推理を働かせるためには、〝傘〟だと思いついたわけです。
 元々小さい時から少年探偵団シリーズなどは読んでいましたが、ミステリをちゃんと読もうと思ったのは、高校生からですね。主に海外作品を読んだのですが、その中でクリスティ、カー、クイーンら本格の作風が、自分にとっていちばん馬が合った。中でもクイーンですね。フェアプレイの部分にもっとも惹かれました」
 たった一本の傘をめぐって繰り広げられる推理はスリリング感満点。堂々としたフェアプレイの風格はもちろんだが、ロジックを披露する高校生探偵、裏染天馬の成績優秀でアニメを愛するという強烈なキャラクターもすこぶる魅力的だ。
 「アニメに関して僕はたしなむ程度で、実は思い入れはあまりないんです。事件が起きたら、生徒は全員家に帰らされる。そうなると生徒の探偵役は難しい。であれば最初から校内の部室に住んでいることにしたらどうだろうと考えました。引きこもりで変わっている男子高校生なら〝アニメ好き〟という連想で生まれたキャラです。すべてが本格の雰囲気だと重々しくなってしまいますから、学園という設定を活かして、事件以外の部分はなるべく漫画チックにしようと心がけたのです」
 平成生まれの氏は、「生まれる前からのムーヴメントですから、僕にとっては新本格も古典のような位置づけで接してきました」と言う。確実にジェネレーションは交代しつつある。他の文芸ジャンル同様にミステリの将来も決して明るいとは言い難い今、若い才能の登場ほど喜ばしいことはない。
 「本作では探偵がなぜ部室に住んでいるかが全く明かされないまま終わっているので、シリーズ化していきたいですね。もう二作目は書き始めています。早く書いておかないと、忘れられてしまいますから(笑)。これからも本格のロジック的な柱を守っていきたいと思っています」
 まだあどけなさが残るその表情の底には、連綿と受け継がれてきている本格の灯火が確かにゆらめいていた。

▲青崎有吾(あおさき・ゆうご)氏=1991年、神奈川県横浜市生まれ。現在、明治大学文学部在学中。横浜市在住。鮎川哲也賞史上初の平成生まれ。







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