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評者◆内山昭一
四億年の歴史をもつ昆虫は大先輩 ゴキブリにも思いを馳せてほしい──解体され平均化してしまったコミュニティ再考のきっかけにもなる
昆虫食入門
内山昭一
No.3075 ・ 2012年08月18日




 「昆虫食」、それは多くの人にとって未知との遭遇に違いない。昆虫料理研究家の内山昭一氏が、自身の調理・味覚体験を基に、懇切丁寧に“おいしさ”を論じたユニークな一冊だ。
 「とても好評でうれしく思っています。昆虫食を知らない人たちに対して、昆虫食の現在をさまざまな角度からできるだけ分かりやすく書きたいと思いました。生まれてたかだか五〇〇万年に過ぎない人類と、四億年を生き抜いてきた昆虫。そんな大先輩から学ぶことは多いはず。にもかかわらず、「虫けら」としておとしめられている現状はおかしい。だから両者の関係を、虫を食べる文化の観点から探りたかったという側面もありました」
 「アブラゼミは、ナッツ味。」とある帯がインパクト満点。ページをめくると昆虫料理の実例がカラー図版でずらり。まずは“洗礼を受ける”という表現が適切だ。
 「本当にアブラゼミはナッツ味なのです。ナッツの写真の隣にあるセミの子どものほうが、親よりもナッツ味。つまり順番も正しいです(笑)。食の問題は、人間にとって最もベーシックな部分。それが今は、スーパーに行けば何でも間に合う。よく考えてみれば「与えられているだけ」とも言えるのではないか。そこから弾かれた物は食材とみなされない。その土地ならではの多様な食材が口に入らなくなってしまっています。そういう食の在り方は疑問です。昆虫も含めてもっと各地の伝統食を見直すことが大切だと思います」
 それと同時に、昆虫が地域の紐帯と捉えることもできると言う。
 「食べておいしいだけではなくて、人々を結びつけるコミュニケーションの重要なツールでもあるのです。コミュニティは、今、解体されてしまっている。つまり地方が地方たる所以を失い、すべてがミニ東京化しています。価値観も変わらないので、地方もつまらないですよね。例えば信州では、ハチの子は、秋になるとみんなが待ちかねている伝統食です。ハチを取って、近所に配って、「結構取れましたね」と会話が弾む。あるいは、(群馬県中之条町で行われるイナゴ取りの大会)イナゴンピックでは、親子でイナゴを取る。そこでは、おばあちゃんが大活躍していました。圧倒的な大勝利です。それを孫たちが見ていますでしょう、するとそこに尊敬の念が生まれるんですよね。一生その子の心に刻まれるはずですよ」
 そもそも昔は、今ほど虫は嫌われてはいなかった。中山晋平作詞「黄金虫」で歌われる、“黄金虫”とは、チャバネゴキブリのことだそうだ。その一例からも分かるように、虫との付き合い方は一変してしまった。
 「サルはもともと昆虫食。魚だって昆虫を食べる。陸に上がった両生類、爬虫類は昆虫食が多い。人間は昆虫を食べて進化してきたのです。小さくて素早い昆虫を取ることで、手が器用になり、五感が鍛えられ、脳も発達してきた。しかも日常、至る所にいる。手っ取り早く、動物性蛋白質を摂取できる日常食(笑)。つい“昨日”ですよ、がらりと変わったのは。明治以降、生活様式がヨーロッパ化していく過程で、昆虫は“害虫”と見なされてしまった。まだ江戸の頃は、昆虫の発生は自然現象と考えられていた。早く帰ってくださいとせいぜい儀式を行う程度。しかし今は“抹殺すべき敵”ですね。特にゴキブリ。昔は100パーセント嫌われ者ではなかったわけです。実は家屋の中に入ってくるゴキブリは、種類としては非常に少ない。森林で朽ち木を食べている種がほとんどで、彼らは自然循環の大事な役割を担っているということに思いを馳せてほしいですね」。蛇足ながら、もちろん内山氏は、オオゴキブリを食している。
 特に印象に残るのは、次の一節だ。「食品は「商品」である以前に「死体」であるという本質」。確かに私たちは、命を奪うプロセスを隠蔽することで、「命をいただく」という食べることの本質を見失っているように思える。身近に使える「食育」教材として昆虫はふさわしいと内山氏は言う。
 「家庭菜園で、トマトやキュウリが育つと、その成長過程がよく分かります。同じように例えばコオロギを飼ったらどうでしょう。鳴き声を楽しんで、食べ頃になったら食卓に載せる。家庭菜園で作られる野菜のように、幼虫から成虫になっていく過程も分かる。日本で昆虫食は季節感を演出する食材と考えたい。セミが鳴き出せば、「そろそろセミがおいしい季節」とか(笑)。四季それぞれにおいしい昆虫がいます。旬の昆虫料理はぜひ試していただきたい。無農薬の畑で野菜と虫を両方とも収穫して食べること。虫を取り払わないで、一緒においしく食べることをオススメします」
 食べるか、食べないかは、あなた次第。しかし昆虫食の良さを知らないままというのは、ちょっと人生損しているかもしれない。この際先入観を脇に置き、雑食動物のチャレンジをしてみてはいかが。(昆虫料理研究会ホームページ=http://insectcuisine.jp/)

▲内山昭一(うちやま・しょういち)氏=1950年長野県生まれ。昆虫料理研究会代表。幼少より昆虫食に親しみ、99年より本格的に研究活動に入る。著書に『楽しい昆虫料理』(ビジネス社)。







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