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評者◆編集部
地元住民、出版界の支援で再開決意――二重ローン、補助金、区画整理……、山積する課題も~大船渡市・みなとや書店~(下)
No.3068 ・ 2012年06月30日




 昨年十二月一日、震災の復興のシンボルの一つとして知られる、岩手県大船渡市の「おおふなと夢商店街」がオープンした。そこに地元のみなとや書店がブックボーイ茶屋前店を出店。経営する五店舗のうち四店が津波に飲み込まれながらも、創業の地である大船渡町で書店の再開を果たした。前回に引き続き、震災から今日までのみなとや書店をレポートする。
 
 (承前)サンリア店の売上は、ピーク時が前年比四百%、通常月でも同二百~三百%で推移した。とくに目立って売れた商品は、五~六月から発売され始めた震災の写真集やDVDだった。地元新聞社・東海新報社の「空から見た爪痕」や村田プリントサービスの「気仙の惨状」、タクミ印刷の「未来へ伝えたい 陸前高田」など、全国流通していない地元の写真集が売れた。
 八~九月には写真集の点数・売上ともにピークを迎え、震災関連の写真集だけで延べ一〇〇〇万円以上を売り上げた。地元住民が親戚などからのお見舞いのお返しとして、何冊もまとめ買いしていったからだ。「皮肉にも、震災で損害を受け、震災のモノに助けられている。人生は、駄目のままではなく、必ず再生されると実感した」(佐藤勝也社長)
 佐藤社長が書店業の再開を決心したのは、ちょうどサンリア店が活況を呈しているときだった。サンリア店のレジに立つ佐藤社長に対して、八〇~九〇歳くらいの老婆が「大船渡のみなとや書店で何十年も買い物をしていた。サンリア店まで来るのは不便だから、早く大船渡に本屋をつくってほしい」と訴えた。海に沿って形成された商業地域の大船渡町と盛町の近辺で無事だった書店は、ブックポートネギシ猪川店とブックボーイサンリア店のみ。大船渡町にあったブックポートネギシ地ノ森店、エビス東港堂などは、みなとや書店同様に全壊。大船渡町には書店が一軒もなくなっていた。そのため、大船渡での再開を請うのは老婆一人だけではなく、レジに来た多くの客から声をかけられた。「創業から七〇年以上経つが、地元の人に支えられていたことに改めて気づかされた」
 客からの励ましの声と同時に、出版界の支援も書店業再開への気持ちを後押しした。津波に流された書籍・雑誌は取引金額ベースで一億円以上にのぼった。当初はその三割分の支援を受ける予定だったが、全額入帳(支払免除)されることになった。「日販には本当に助けられた。流された商品の仕入れ代金を返しながら、新たに仕入れた商品の代金を返済していくのは無理だと思っていた。これで商売できる環境が整った。また、大変な時に取次会社・日販の古屋文明社長が訪れ、支援や励ましの言葉をいただいたことも復興への大きな力となった」
 その後、茶屋前商店街の店主らが中心となってJR大船渡駅前に飲食、雑貨、衣服などの店舗を集結させる「おおふなと夢商店街」の構想を知り、その仲間に加わった。みなとや書店復興の第一弾となった茶屋前店は、売り場面積は三〇坪、書籍・雑誌は約三万冊という品揃え。流された大船渡店の五分の一のスペースだったため、売上は大船渡店の七分の一に減った。「ある程度は売れるが、人も少なくなったので厳しい状況」と小さいながらも第一歩を踏み出した。
 「おおふなと夢商店街」は、復興のシンボルとしてマスコミ各社に取り上げられ、旅行者などが訪れるようになった。「この地域の経済が復旧する先駆けになれれば」との思いが少しずつかたちになってきた。さらに、佐藤社長や同商店街の店主は、「おおふなと夢商店街」を中心とした周辺地域を、「もう一度大船渡の商業集積地にしたい」と思い描いている。周辺にはショッピングセンターのマイヤ、ドラッグストアの薬王堂、ホームセンターのサンデーなどが店舗を建設中で、これから少しずつ賑わいが戻ってくるだろう。
 さらに「おおふなと夢商店街」も、仮設店舗は建設後二年で取り壊すという規定があるため、今後を見越した動きに出ている。同商店街の店主のほか、近隣の商店主と協同組合を組織して、出店費用の四分の三を補助してくれる国と県のグループ補助金「中小企業等復旧・復興支援事業費補助金」を申請し、本建築の店舗の出店を検討している。また、新たに商売を再開するための壁になっている「二重ローン問題」を解決するためにも、これまでの銀行借入金の返済を一時ストップするために、岩手県産業復興相談センターで債務買取の手続きを行っている。同時に、佐藤社長は現在の同商店街の店舗を継続しながら、今年十二月にも約二〇〇坪の書店をオープンさせる計画を立てている。すでに近隣の土地七〇〇坪を賃借し、店舗の設計も依頼した。今後は二重ローン問題が解決し、補助金の申請が受理されれば、銀行との借り入れの交渉も進むという。
 一方、商店主たちの動きと並行するかたちで、大船渡市は「おおふなと夢商店街」の周辺地区を「区画整理」の対象地域に予定している。区画整理エリアが決定してしまうと、土地や建物の賃貸や売買が著しく制限されてしまうという。その決定が今年八~九月に下される。区画整理事業は九年計画で進められる予定だが、「九年も待っていたら客はいなくなる。商売できなくなる」と、行政の復興事業を待っていられないというのが商店主らの本音だ。
 しかし、山積する問題を前にしても、佐藤社長の言葉は明るい。「普段の生活でも前向きに考える癖をつけている。だから、今年中に本屋をオープンすると決めたら、来年、再来年とは考えない。絶対今年中にという気持ちでやらないと」
 すべて根こそぎ流された――。だからこそ、水や食料、電気など当たり前に享受されているものへの「ありがたみ」を改めて認識することができた。街の本屋という存在も大船渡町から無くなることで、改めて地元住民がその必要性を認識した。街という存在から本屋が必要とされた瞬間でもある。それが佐藤社長の背中を押してくれたのだろう。
 「救援物資や義援金などいろいろな人から支援を受けた。本当に助けられた。だからこのまま(書店を)やめられない。これだけしてもらって、やめましたとはいかない。私は商売人だから、商売でこの恩を返すしかない。これからも本を通して、お客さんや取引先に還元していきたい」







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