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評者◆秋竜山
じっと目を見る、の巻
No.3068 ・ 2012年06月30日




 演歌〈兄弟仁義〉が、さかんに唄われた時代があった。〈星野哲郎・作詞、北原じゅん・作曲、北島三郎・唄〉。よく口ずさんだものだ。あの当時、この歌の歌詞がとっても格好よいと思った。任侠物の映画が大流行していたから、不思議なことでもなかった。引用させていただくと(スミマセン)。〈俺の目をみろ 何にも言うな。男同士の 腹のうち。ひとりぐらいは こういう馬鹿が。いなきゃ世間の 目はさめぬ。〉現実に、このようなことができるだろうか。第一に、「俺の目をみろ」というのが異常である。眼医者にむかっていっているのではない。その後の文句、「何にも言うな」である。「いいか、俺の目をみているだけだぞ」と、いうわけか。こんなことっていえないし。いわれたほうも、どうしてよいかわからないだろう。わかったようなわからないようなのがよかったのか。阿川佐和子『聞く力――心をひらく35のヒント』(文春新書、本体八〇〇円)では、著者の書く力のすばらしさに、思わず手にしている本書を耳にあててみる。(外国マンガに、レコード盤を耳にあてているのがあったけど)活字が書き手の声となって、聞こえてくる。著者の阿川佐和子さんの声である。当代随一の売れっこ人気作家である。毎週、朝のインタビュー番組をテレビで観させていただいているから、どのような声をしているか知っている。で、本書に、〈相手の目を見る〉という項目がある。
 〈人と会話をするときは、相手の目を見るのが礼儀というものです。いつの頃からか、そんな教育を受けてきた覚えがあります。それゆえ私はずっと、特に礼を尽くすべきお相手の場合や、真剣に話を聞かなければいけない場においては、相手の目をじっと見つめる癖がついていたようです。〉(本書より)
 やっぱり人間って教育の力によって変わるものだと、つくづく思う。同じ日本人でありながら、相手の目をじっと見つめることのできる人と、そんな恥ずかしいことできるわけがないという人。昔風の日本人だと、相手の目を見つめるなんて!! 生まれた時からできるものではなかった。
 〈日本人と比べると、やはり欧米人の「視線」に対する考え方は、多少、違うように思われます。それこそ「相手の目を見ながら話を聞くのが礼儀」ということを、子供の頃から徹底的にたたき込まれ、それを習慣にしているのだから当然のことかもしれません。〉(本書より)
 お互いに、そっぽをむきあいながら話をしている光景をよくみる。日本人だったら、あたり前のことだったろう。そんなこと自分もやっているのだろうと思うと、私もやっぱり古い日本人なのかもしれない。お互いに目と目を合わせて会話するなんて、恥ずかしくてできるものではない。だから初対面の人の場合、別れた後、「ハテ? どんな顔をしていたんだろうか?」なんて考えてみても思い出せなかったりする。「どうしたんですか? 目が泳いでいますよ」なんて、いわれたこともあった。どうして、私の目が泳いでいたのか思い出せないが。目というものは実に恥ずかしいものである。相手もそーだろうから、なるべく相手の目を見ないようにする。では、どこを見るか。それもまた、むずかしい。そっぽをむいてばかりいられないだろう。勇気を出して相手の目を見るか。お互いにまっかな顔をさせながら。







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