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評者◆小島正樹
やりミスの名手が放つ怪異譚 確信犯的なバカミスも登場!――海老原シリーズの“承”となる作品。次なる新作は“転”
綺譚の島
小島正樹
No.3067 ・ 2012年06月23日




 “やりすぎミステリ”、通称“やりミス”の称号を独占する小島正樹氏が新作『綺譚の島』を上梓した。「実は、やりミスというのは、僕が言い出したのです。『武家屋敷の殺人』を出したときに、“やりすぎ”と評価されました。“バカミス”もあれば“イヤミス”もある。だったら、やりミスの伝道師として、さりげなく広めようと活動しています」。その称号に違わぬ、瞠目の一冊だ。
 舞台は、愛知県・知多半島の南の沖にある贄島。そこでは、四〇〇年前に亡くなった一領具足の魂を鎮めるための「贄の式」という奇妙な儀式が伝わっている。その儀式が行われた日から、次々と関係者が怪死を遂げるという物語だ。舞台設定について尋ねると、「瀬戸内海は横溝(正史)さんが多いので恐れ多くてやめようと。司馬遼太郎さんがすごく好きで、『夏草の賦』という長宗我部元親を主役にした本を何度も読んでいるのですが、侍を出すなら一領具足を出したいと考えました。そうなると北海道や東北だと遠すぎる。四国近辺で探していたら、知多半島沖にある篠島の風景が思い浮かびました。周辺を調べてみると、禍々しい伝説などがあることを知ったのです。『獄門島』のように、何かが訛って、“こういう呼び名になった”というのにしたかったというのもあり、“贄の式”を考えたものですから、知多半島沖にあり、二つの小さな島を従えて、三重島と呼ばれていたが、それが訛って贄島になった。そういうふうにしようと思ったのです」。
 独りでに動き叫ぶ具足、沼の水面の少し上、中空に浮く桜の花びらなど、今回も仕掛けが満載。しかもすべての謎がきっちり解明されていく。やりっ放しではないところが伝道師たる所以だ。「『天に還る舟』で島田荘司先生に教えていただいたのは、トリックが一つ浮かんだら、それが失敗したらどうなるか、あるいは予行演習を誰かが見ていたらどうだろうかと、さまざま考えましょうということでした。つまりすぐに満足しないで、もっと面白くできるはずだと粘るようにしているのです。そのおかげで五個のトリックが十にも十五にもなるのです」と創作の裏側を話す。詳細は明かせないが、「バカミスの決定打」も登場。「殺し方がリアルだと、本当に起きそうで書いていて怖くなる。読者の方もイヤになるのではないかと。『十三回忌』から、確信犯的にバカミスをわざと入れています。それで読者が、「ありえないよ」と笑ってほしいのです」
 冒頭には、「この中に犯人がいますよと、読者に対してフェアであるために」読み仮名付きの登場人物紹介がある。じっくり眺めながら、氏の挑戦を受け止めてほしい。と同時に付されている「贄島略図」を見ると、「遊び女殺しの崖」の文字が。「この名前で何も起こらなかったら、おかしいでしょう」と笑う。ネーミングは、「一瞬でひらめきました。実は最初に島の全体図を描きながら、洞窟も沼も鉄塔もある。そこで崖も欲しいなと考えていたらその言葉が出てきて、逆にそこからそれにまつわる過去の話がばーっと全部降ってきたのです。おそらく僕の中で横溝さん、京極(夏彦)さん、三津田(信三)さんの本が熟成していた結果でしょう」と振り返る。
 物語の魅力に華を添えているのが名探偵・海老原浩一だ。就職もせず晴耕雨読の日々を送る彼の、糠に釘的な存在感がユーモアに満ちている。しかし、「最初はもう少しクールで淡々としていました。『扼殺のロンド』の際に担当編集者から「人が奇怪な死に方をするし、結末もなかなか悲しかったりするので、それではメリハリがなく暗いだけになってしまう」という指摘がありました。そこで読者も僕もホッとできるように、海老原の部分を明るくしようと。僕自身も海老原との距離が段々近づいてきて、本作でようやく確立できたかなと感じています」。彼の特徴の一つに、“ホットミルク好き”がある。氏の趣味の反映かと思いきや、「僕は全く牛乳飲めないんですよ」と意外な返答。大団円の前に、聖書を引用するシーンも定番だ。「海老原はプロテスタント系の高校に通っていました。そこで突然両親を亡くしています。その後、毎晩、聖書を読まないと眠れなくなってしまいます。その悲しみと、犯人を糾弾しなければならない遣り切れなさが彼の中でせめぎあった結果、自分を落ち着けるためにつぶやくのですね」
 最後に楽しみな情報を教えてくれた。「秋までに双葉社から新作『崇り火の家』が出ます! これは海老原シリーズで、『天に還る舟』が起承転結の起、『十三回忌』から『綺譚の島』が承とすれば、新作は転の始まりとなります。ここからいよいよ海老原が両親の死と向き合います。そこには実はとんでもない謀略が絡んでいます。海老原自身も失敗を犯し、“汗”をかくような場面も出てきますよ」
 稀代のトリックメーカーを師と仰ぎ、「島田先生からの手紙がなかったら、作家になろうとも思わなかった」と感謝の念を忘れない。そんな小島氏の活躍からますます目が離せなくなりそうだ。

▲小島正樹(こじま・まさき)氏=埼玉県生まれ。2005年、島田荘司氏との共著により『天に還る舟』を上梓。2008年に単独デビューを果たした。スケールの大きなトリックと、どんでん返しを得意とする。著書に『武家屋敷の殺人』、『扼殺のロンド』など。







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