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評者◆内堀弘
日本ゲイ文化の黎明期――股旅堂古書目録の特集が開けた、日本ゲイ文化アーカイブの扉
No.3049 ・ 2012年02月11日




某月某日。千代田区立図書館で「気になる古書目案内」という展示会が開かれている(3/24迄)。「古書目」というのは古書目録のことで(ちょっと聞き慣れない略し方だが)、各店が発行する古書の在庫目録だ。
 インターネットによる便利な「検索」と、ブックカフェのような素敵な「リアル」の狭間で、今も「こんな古本あります」と小冊子(目録)を作る古本屋がいて、ポストに届いていると「オッ」と喜んで下さるお客さんもいる。
 「気になる」古書目録といえば、昨年の暮に届いた股旅堂古書目録だ。エログロナンセンスを得意とする新鋭の古書店だが、この号は「特集日本ゲイ文化の黎明期」と、なんとも思い切ったテーマに取り組んだ。
 特集の巻頭を飾るのは雑誌『アドニス』(昭27年~)で、「(この幻の雑誌から)日本ゲイ文化は始まった」と解説される。
 以前、『魔群の通過』(平14・阿部秀悦)を読んで、私はゲイの地下雑誌『アポロ』『アドニス』のことを知った。昭和20年代後半から30年代に出たこの二誌には戦後の代表的な文学者が別名で参加しているというのだ。たとえば三島由紀夫は榊山保という筆名で、中井英夫は碧川潭、塚本邦雄は菱川伸……そんな事実が実証的に明らかにされる。さらに興味深い(いや、驚いた)のは、『アドニス』の編集を途中(昭29)から引き受けた田中貞夫が、ほどなく作品社(寺山修司『われに五月を』や中城ふみ子『乳房喪失』はここから出る)を立ち上げたというのだ。
 もう十年ほど前、ゲイ文献専門の古書店を開きたいという青年に会った。ゲイ文献は本人が生前に廃棄してしまうため、資料として残りづらいそうだ。「僕はフケ専(老けたゲイの店をそう言うらしい)を訪ねて資料保存を訴えるつもりです」という彼の熱意に、私は妙に感動したものだが、それきり消息は絶えた。
 彼が言っていたように、この文化は様々な広がりを持つものに違いないが、アーカイブとしては手がつけられていない。股旅堂の特集は初めてその扉を開けた。
 「気になる古書目」で、これは画期をなした一冊と思うのだが、千代田図書館で展示されるだろうか。
(古書店主)






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