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評者◆福田信夫
同人誌の鑑となる健在ぶりの二誌――縁故疎開・集団疎開の実態を明かす「十歳の集団疎開児」(伊藤幹彦、『遊民』)、実在の人物を通して太宰治の晩年の悲痛な姿を描いた「オリオンの星は燦めく」(浅田高明、『異土』)
No.3027 ・ 2011年08月27日




 半年前のこの欄で、創刊された『遊民』と『異土』を取り上げたが、両誌の3号は同人誌の鑑となる健在ぶりを見せつけている。性格は前者が社会性を、後者は文学性を大事にしているが、名古屋圏の『遊民』は6人の侍(うち女1人)、近畿圏の『異土』は同人8人(男女半々)が70歳代と思われ、全員が書ききっているのに敬服した。
 前者は伊藤幹彦「十歳の集団疎開児」が敗戦の一年前から始まった親戚などへの「縁故疎開」と学校ごとの「集団疎開」の実態を明かすもので「ボス以外は誰もが朝には被害者であり、夕べには時に加害者となった日々のことは、戦場のことを家族には話さなかった元日本兵と似ていなくもない」とも記すが、これは原発など「現代のテクノロジーと人間について考える」三嶋寛の文の静謐さにも通じ、心を落ち着かせる。大牧冨士夫「おぼえ書き・西沢あさ子さんのこと」は、詩人中野鈴子の親友であり、「西沢隆二=ひろし・ぬやま」の元妻であった渡辺芳子の姿を原泉や佐多稲子から教えられたものの最晩年は杳として不明であるが、一九三〇年のある夜、38歳の佐藤春夫が佐多宅を訪ね、西沢と芳子を呼びつけ、芳子に自分をとるよう迫ったが、芳子が断わった挿話なども。大牧の党と妻をめぐる落穂拾いの旅の続きは?
 『異土』は小説一篇の他は50枚から150枚の評論7篇で247頁。村上春樹、大江健三郎、内田百閒論の他、「ゲルツェンとマルクスにおける人間と社会の関係」「イロニーについての覚書」「松本清張と森鴎外」は、どれも魅力的で説得力のある労作。また、浅田高明「オリオンの星は燦めく」は水戸弘(昭3~平20年8月)という実在の人物を通して太宰治の晩年の悲痛な姿を描いた63枚。
 これらに対して関東圏の『群系』27号は特集「戦争と文学――昭和文学の水脈」で詩人の大木惇夫、小柴三由起、神保光太郎、石原吉郎、逸見猶吉の他、太宰、川端、堀田、藤枝論など18人による23編などで232頁。野口存彌「野間宏『顔の中の赤い月』の背後に」が最も長く重厚だが、澤田繁晴「現代日本に通じる戦争日記」として清沢洌、永井荷風、高見順などを取り上げたのがユニークだ。次号の特集は「百年の日本文学」最終回(一九六七~二〇〇〇年)を繰り延べ、急遽「震災と文学」にするそうだ。
 『文学街』286号の森啓夫「復刊・文学街十四年の歩み(1)」は、昭和32年に創刊し、11年余月刊で発行して休刊となった『文学街』を30年ぶりに個人誌として発行した一九九八年から二〇〇八年までを日誌風に綴ったもので同人誌界の生き字引であり、ユニークなオルガナイザーの森の私事をからませての物語同人誌史でもある。
 『コブタン』34号の須田茂「武隈徳三郎とその周辺(二)」は、約一年前に本欄で扱ったものの続きであり、結末は引用するのも忍びがたいが、須田の執念深い労に敬したい。
 『Q文学』2号は、『針生一郎と危険な昼下がり』という創刊号を針生の死により名称を変更したもので「Qの会」会員は17名。巻頭の玉井五一「Qへの独白めいた気儘な手紙」は、玉井が関わった小熊秀雄、花田清輝、中野秀人、松本昌次、保田與重郎、針生一郎、武井昭夫その他との思い出を綴ったもので、針生と武井との拮抗も。玉井の小説「海辺の墓地」も添付されている。
 以下は同人誌ではないが、新田次郎記念会編『新田次郎文学賞 30年の歩み』は、同賞の第一回(昭和57年)から第30回(平成23年)までの受賞作と選評、受賞の言葉をまとめた冊子72頁。故・新田次郎は来年、生誕百年を迎える。
 『吉村昭研究』14号は「私の選んだ吉村昭ベスト3」のアンケートをまとめたもので23人の理由が面白いし、編集部の偏愛ぶりに脱帽した。
 これはPR誌であるが、『海鳴り』23号の庄野至「僕がパブリカで走った夜」と大塚滋「化学の錯誤(続)」と涸沢純平「二つの訃報」(島田陽子と宗秋月への追悼)が心に残った。
 最後に17年間続いた『一宮館文庫』は18号で休刊することになった。小説、詩、エッセイ、短歌、俳句を50人が寄せているのに(から?)。
(敬称略)
(編集者)







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