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評者◆秋竜山
世の中、「苦笑」だらけではないか、の巻
No.2961 ・ 2010年04月10日




 気づかなかった。笑いの中に、このようなステキな笑いがある、なんて。「苦笑」である。「くしょう」だ。「苦笑い」ともいう。〈苦笑―にがわらい(すること)〉〈苦笑い―にがにがしく思いながら笑う・こと(笑い)〉と、事典にある。にがにがしく思いながら、にがわらいをすること、だ。笑いの中にこのような笑いがあるということは、やっぱり笑いというものは、ただものではない!! と、いうことである。もしかすると、数え切れないほどある笑いの中で、三本の笑いの中にはいるかもしれない。〈笑いの効用〉というのがある。そして、本書では〈ここでわたしは苦笑の効用を考えてみたい。〉と、示唆する。春日武彦『しつこさの精神病理――江戸の仇をアラスカで討つ人』(角川書店、本体七〇五円)では、本のテーマは「恨み」である。そして〈苦笑の効用〉を、取りあげている。
 〈釈然としない気持ちと引き換えに、自分の脆さや厄介さを「苦笑を交えつつ」眺めるための「練習をしている」と心得ること―それがもっとも現実的ではないのか。もちろん苦笑に至るまでには、一通りの心の動揺がプロセスとして必要だが。苦笑することは、人間にとって予想以上に大切なことだとわたしは思う。生き物の中で笑うことができるのは人間だけであるが、子どもには苦笑ができないことを強調しておこう(冷笑する子どもはいるだろうが)。〉(本書より)
 笑いの中で苦笑は地味である。そして、奥が深い。苦笑は、苦笑させられるものである。苦笑させられることによってうまれる笑いである。だから、そのような状況でなければ笑えない笑いである。たとえば、苦笑を上手に演ずることのできる俳優は誰だろうと考えた時、即座に名が浮かばない。「ハテ? 誰だろう。……いただろうか……」となる。苦笑い、上手、下手があるのか。あると思う。もし苦笑を名演技する俳優がいたとしたら、もう他の演技は必要としないで、ひたすら苦笑をしていればよいのである。それだけで、世界の名俳優となれるだろう。本書でいう〈懐の深さを、実感させてくれるような「素敵な苦笑」〉と、いうことである。
 〈苦笑には物事を客観的に眺めるだけの余裕、何らかの真実を滑稽さと共に見出すだけのセンス、ときには諦めや敗北を受け入れるだけの度量、とりあえず現状をスルーするだけの大人の知恵、それらが込められているのである。〉(本書より)
 名画「モナリザ」といったら微笑である。誰の微笑だ。もし、あのモナリザが微笑でなく苦笑であったらどーかしら。謎の微笑のように有名になるだろうか。謎の苦笑だ。サテ? 微笑と苦笑の顔の表情とは、どのような違いがあるのだろうか。あのモナリザの微笑も始めっからそのようにいわれているから誰もが謎の微笑というけど、これが、謎の苦笑といわれたとしたら、誰もがそのように思うに違いなかろう。〈いや、微笑と苦笑の表情はまったく別のものであって、すぐ判明できる〉と、いわれるかもしれない。そして、謎の苦笑といったら「キリスト」だろう。謎の苦笑がもっとも似合う人物だ。よく考えてみれば世の中は苦笑せざるをえないことばかりだ。こまった苦笑である。







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