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評者◆前田和男
第69回 「綱領」をめぐる安藤・松崎の対立
No.2956 ・ 2010年03月06日




 さて、「名前」が決まったあとは、「頭」の中味、つまり基本理念と政策である。これについても、細川は「結党宣言」で二ヶ月以内に明らかにするとしており、熊本県知事時代以来「細川の頭脳」であった安藤博が中心になり、金成らも加わって、とりまとめの作業が突貫でおこなわれた。
 金成によれば、この基本理念(綱領)のとりまとめの背後には、深刻な対立が隠されていた。それは、細川の熊本県知事以来のブレーンである安藤と新党結成の中途から参加し幹部となる松崎哲久との対立である。松崎は、一九五〇年生まれ、東大法学部・ハーバード大学大学院卒。土光臨調のブレーンである佐藤誠三郎東大教授、香山健一学習院大学教授の弟子筋にあたり、小沢鋭仁とともに、党内では「東大ハーバードグループ」と呼ばれていた。義父は元三重県知事で衆議院議員の田中覚、義理の伯父は元首相の三木武夫、祖父は昭和電工の創業者という超エリートであるだけでなく、後に「湯川裕光」名で歴史小説や劇団四季のミュージカルの脚本を描くなどマルチな才覚の持ち主でもある。
 「結党宣言」の草案をつくった安藤は「綱領」の素案づくりも担ったが、日本新党の基本政策は五五年体制のイデオロギー対立に「決着」をつけるべきだとの信念をもっていた。すなわち冷戦下における自社両党の基本的政策の争点
 1九条改憲か護憲か
 2自衛隊を認めるか否か
 3日米安保を認めるか否か
 4原発を認めるか否か
 5北朝鮮を認めるか
 の五点に対して、新党は「綱領」として明示したいと考えていた。
 これに対して松崎は、新党は、「自民党にかわって政権を担いうる政党という一点」で、「多様で、多彩な」有権者にアピールするべきで、党の「基本的体力が弱いとき」には、党の基本政策は、大方の有権者に受け入れられる、たとえば、
 1議会制デモクラシーの堅持
 2自由経済体制の擁護
 3日米基軸外交の推進
 といったレベルにとどめ、異論が生じる個別政策には踏みこまない、とのスタンスだった。さらに、松崎は、安藤とは対極の、「政党が確固とした綱領をもたなければならないというのは、古典的政党理論の残滓にすぎない」とすら考えていた。
 そして、六月一〇日、記者発表された「基本理念」とは以下の概要であった。

 一 政治の抜本改革
 戦後五五年体制の打破と冷戦以降の新体制の創造にむけて、「品格ある国家」をめざす。そのために、
 1保護統制・生産者の「既得権擁護型」から生活者主権を大切にする「開放・自由選択型」へ
 2「中央集権・官僚主導型」から「地方分権・住民参加型」への路線転換を行なう。
 あわせて政治手法も、
 1「イデオロギー対立型」から「政策論争型」へ
 2「利権誘導型」から「理念提示型」へ
 3「派閥支配・組織重視型」から「法治優先・ネットワーク優先型」へ転換する。
 二 新世界秩序の形成
 1各国主権を離れた国連常設部隊の創設をめざし、アジア・太平洋地域の新たな安全保障の枠組みづくりにイニシアティブを発揮する。
 2「競争」と「共生」の均衡のとれた国際ルールを普遍的なものとして受け入れる新しい国際協調主義の理念形成をはかる(「コメの市場開放」など海外の企業に日本市場を開放する)
 などグローバリズムの理念にたって「世界の中の日本」の役割と責任を考える国民政党をめざす。
 三 新しい改憲論の提唱
 現行憲法の1国民主権2平和主義3基本的人権など基本原則を堅持した上で、冷戦以降の国際環境に対応できるものに改正する(国威発揚を志向する改憲論とは異なる)。「改正」が必要と考えられるのは、1国連平和維持活動への積極参加の明記、2国際協調の精神の強調など。
 四 六つの基本目標
 1立法府の強化と政治・行政改革の断行
 2生活者主権の確立
 3地方分権の徹底と行財政改革の推進
 421世紀のための教育改革
 5世界平和へのイニシアティブと世界経済との協調
 6地球環境問題への挑戦
 以上である。

 金成によれば、これは最終的に代表の細川が手をいれたとされ、後に細川も「今でも輝きを失っておらず、通用する」(『「新党」全記録』)と言っているが、『文藝春秋』の「結党宣言」の焼きなおし。いささか安藤寄りではあるが、綱領にまで純化・徹底されることはなく、(そもそも「綱領」という言葉は使われず)松崎の顔もたてたという印象は否めない。安藤にも松崎にも不満が残る結果となり、後述するが、ここに後の日本新党が離脱者を生み、短命におわる根の一つがあったといえるかもしれない。
 ただし、細川が手をいれた「基本的考え方」はたしかに折衷的でいささか「ゆるい」面は否めないが、「地球環境問題」を早くも政策の柱に掲げたことは、後に詳しく述べるが、日本新党のもつ「新しい政治文化」の表われの一つとして評価されていいだろう。さらに、もう一点評価されるべきは、これら基本政策を実現するための「改革の方法論」だ。これについて、金成は歴史観ゆたかな表現で、次のように称揚している。

 「細川代表が主張する改革の方法(選挙戦を闘って改革を実現する)は、国民大衆に依拠するという点では、レーニンの前衛論、毛沢東の根拠地論、吉田松陰の草莽論とも全く同じであるが、対象となる既存体制が異なることがあるとしても、レーニンの前衛党の秘密性、毛沢東の人民解放軍の武闘性、吉田松陰の草莽決起の悲痛性とは全く異なり、「お殿様」といわれかねないほどあっけらかんとした楽天性に貫かれている。この楽天性がどこからくるかといえば、歴史の教訓に全く無知であるためでは勿論なく、たとえば、代表の祖父である近衛文麿の「新体制」に対する高島善哉の批判など十分承知で、むしろ歴史の教訓に大いに学んだが故にもたらされたものである。」
(文中敬称略)







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