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評者◆前田和男
「新宣言」に連合政権論を盛り込む
No.2909 ・ 2009年03月14日




 かくして飛鳥田委員長を通じた連合政権への模索は挫折するが、それでも高木はあきらめずに、次なる仕掛けを試みる。
 それは、一九六六年に綱領的文書として採択・承認され党の路線を縛り上げてきた「日本における社会主義への道」(以下「道」)を見直し、政権をとれる社会党に体質を改善することだった。
 「道」は、党内最左派の社会主義協会の息がかかったもので、資本主義は行き詰って社会主義に席を譲らざるを得ないとの情勢分析にたち、社会党は「階級政党」として、議会を通じた「平和的手段」は用いるものの、「社会主義革命政権」をめざすというものだ。
 これではあまりにも時代錯誤で国民多数からは見放されてしまい、長期低落傾向に歯止めがかからないという問題意識からはじめられたのが、「道」の見直しである。一九七八年の四二回党大会で、「社会主義理論センター」(以下理論センター)が設置され、福島新吾(専修大教授)と大内秀明(東北大教授)を座長格に、学者が助言者として起用される。新田俊三(東洋大教授)、福田豊(法政大教授)らとともに高木もその一人に加わる。福島をのぞいてくしくも高木をふくめ元社会主義協会のメンバーであった。「道」の見直しは十年の党内議論をへて「日本社会党の新宣言――愛と知と力のパフォーマンス」(以下「新宣言」)へと結実する。
 「道」から「新宣言」への転換は、社会党が「マルクス・レーニン主義の党」から「西欧型社会民主主義の党」への脱皮・転換を宣言したものだが、高木にとってはソ連のチェコ進駐に触発された高木の政治人生の路線転換をやや遅れて表現した「写し鏡」でもあった。
 党内的には社会主義革命の旗を降ろすかどうかに注目と論議が集まったが、高木の一番の思い入れは「連合政権」という言葉をいかに書き込むかだった。ちなみに、「新宣言」にはこう記された。

 「今日では、政治意識と価値観の多様化のなかで、連合政権はふつうのことである。日本社会党は、憲法完全実施をめざすという合意、および改革の政策が一歩でも前進する見通しを前提とし、どの政党との政権関係にも積極的に対応する。」

 なお、「(連合政権は)ふつうのこと」と書き込むことにイニシアティブを執ったのは高木だった。高木が「ふつう」にこめたのは、「西ドイツ社民党型連合政権論」であり「大連立」ではなく「小(党)連立」のイメージであった。
 いっぽう「道」では、社会党は「階級的大衆政党」と位置づけられ、社会主義革命政権に向かって、当面は「反独占国民戦線」をバックに「過渡的政権」をめざすとしており、その「過渡的政権」を次のように規定していた。

(イ)社会党の絶対多数の単独政権を基本とする。しかしそのほかにも、(ロ)比較多数の社会党に他の会派の閣外協力による単独政権、(ハ)社会党と、保守を除く他の革新的会派との連立政権等の形も考えられる。

 連立にふくみを残しているが、その場合でもあくまでも社会党中心であり、社会主義革命政権の支持者でなければならないとするものだ。
 「新宣言」に連合政権を盛り込めたのは、追風がいくつも吹いていたからだ。すなわち一九八三年には、社公民路線に消極的な飛鳥田委員長に代わって、社公民路線に積極的な姿勢をとる石橋政嗣委員長が登場。また労働運動の現場では民間の組合が先行する形で、総評と同盟の労働戦線統一の動きがおき、それは後の連合の結成に結びついていく。
 このように連合政権論については、受け入れやすい政治環境にありながら、新宣言のなかでも反撥が集中。「自民党との連立への布石だ」として「道」に愛着をもつ党内左派から批判された。党の性格についても、草稿段階で入っていた「国民政党」という用語に強い反対があり、結局「国民の党」という用語で妥協がはかられた。党大会では、すったもんだのあげく、採択にあたって左派から「安易な保革連合はとらない」という「付帯決議」というタガをはめられた。
 なお、十年後には党内の左派も右派も「安易」に「保革連合」の誘いにのって、村山政権を誕生させ、この「タガ」がなんの役にも立たなかったことを証明するのは、歴史の皮肉であった。
 さて、難産の末に誕生した「新宣言」だが、マスコミの評価はどうだったか。おおむね好意は示しつつ「お手並み拝見」というものであった。
 たとえば「朝日新聞」八六年一月二十三日の社説は「戦後四十年、社会党が追求してきたマルクス主義的社会主義革命路線が清算された、という点に新宣言の歴史的意義がある」と評価したうえで、次のように注文をつけた。「しかし新宣言は当然のことながら社会党再生への特効薬ではあり得ない。(略)新宣言採択が脱皮への第一歩にすぎず、政権を狙う政党としての力量を回復する再生への道のりは、まだまだ長くつづく(略)。とくに夏の参院選挙、近く予想される次期総選挙が社会党改革の試金石となるだろう」
 では朝日のいう「試金石」はどうだったか。同年七月、中曽根首相は、衆院解散のための臨時国会は開かないと野党に約束しながら、巧妙にタイミングを見計らって、これを反故にし衆参同日選挙に打って出た。世に言う「死んだふり解散」である。結果は、衆参ともに自民の圧勝と社会党の惨敗であった。(衆院では、自民は史上最高の三百議席超、いっぽう社会は前回より二十七議席減らした史上最低の八十六議席。参院では、自民は非改選と合計して十一増の百四十五議席。社会は一増の四十一議席)
 残念ながら高木が望みを託した「新宣言効果」はいきなり裏切られた。ただ高木を弁護すれば、社会党の体質改善に資するという面では「新宣言」は完全なものでなかった。(文中敬称略)







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