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評者◆前田和男
出馬を決意するも地元の友人から総すかん
No.2896 ・ 2008年11月29日




 選挙体制のためにまずは「核」をつくらなくてはいけない。仲間を集めて寺で何回も会議を開いた。ところが、錦織の気宇壮大な文明論に興味はもってくれたものの、その文明論を具体化するために「選挙に打って出る」と言ったとたん、「なにを勘違いしてるのか」と総すかんをくらった。てっきり応援してくれると思っていた錦織は、絶望のあまり、泥のごとく酔ってショックをまぎらすしかなかった。
 それでも気をとりなおし、東京生まれで東京育ちの妻と二人三脚で、準備にかかった。最初の地元の集会をいさんで構えたものの、二百人収容の会場に来場者はわずか三十人たらず。生まれ育った町でこの程度しか支持者を集められないなら戦いにならないと、挫折感に打ちのめされた。そのうち高校の同級生で学生運動仲間や学校の恩師など徐々に応援団ができてきた。なにもないところからしこしこと運動と組織をつくる。これには、学生運動と弁護士事務所経営の経験とノウハウが大いに生かされた。
 出身地の平田市をはじめ、手がかりのあるところから拠点づくりに取り組んだ。それが効を奏して一九九三年(平成五)五月には、人口三万人の平田市で、千人を超える集会を開くことができた。ここでようやく自信がわいてきた。
 選挙体制は「友達の輪」で地道などぶ板作戦をつづけたが、広報活動は直球理念勝負。わかりやすくかみくだきはしたが、中東行で体感した「世界観の喪失による危機」から説きおこし、「人類三つの危機」として「環境破壊」「核の危機」「南北問題」をうったえた。選挙パンフレットをみた支援者からは、「文明論で選挙を戦うのか」と呆れられたが、それでも直球理念勝負の戦い方は変えなかった。その決意のほどは前掲の自著『神々の終焉』にこう書き記されている。

 「よく島根県民は遅れているから、理想の精神を説いたり、高邁な思想を語っても、そのようなものは田舎では通じない」というような指摘をうける。しかし、私としては、そうではなく、地方の人々の本当の意味の良心や期待感というものを実現してくことこそが、政治の大道だと思います。」

 そうこうしているうちに春がすぎ、ついに選挙が日程に上った。一九九三年六月一四日、野党から提案された内閣不信任案が小沢一郎ら「自民党内政治改革推進派」の「造反」によって可決され、宮沢首相は総選挙にうってでたのである。投票日まで一月。選挙はもう少し後だと読んでいた錦織は、突然の解散になって、とどかないかもしれないと少々焦りをおぼえた。

●できたての「さきがけ」に共感

 当初錦織はあくまでも「無所属」で出馬するつもりだった。もとより自民党から出るという選択肢はなかった。政界再編をめざして新党が続々と生まれつつあったが、いずれも錦織には食いたりなかった。新生党は自民党の最大派閥・竹下をリーダーに仰ぐ経世会の分派だから手垢にまみれている。既に旗揚げしていた日本新党にも、後に述べるように期待感を持てなかった。当選したあかつきには自分で党を立ち上げれば、おのずから「同志」が集まると考えていた。そんなこんなで一年以上も「無所属」のままだったが、解散がきまって、すわ選挙となってさきがけと出会った。(さきがけは武村正義を代表に、解散の七日後の六月二一日に旗揚げされた)
 知人から「今度できたさきがけは君にあうかもしれない」と言われ、「結成宣言」と「政治理念」と「政策の基本姿勢」の“三点セット”を、ファックスで送ってもらった。一読して、共感を覚えた。通常は政党が広くスカウトを行い、これはという候補者を釣り上げてくるものだが、錦織の場合は、リクルートされたのではない。錦織がさきがけを「発見」し、「選択」したのである。
 ちなみに、錦織が共感したさきがけの「結党宣言」と「政治理念」を以下に掲げる。

〈新党さきがけ結党宣言〉
「冷戦後の新しい時代に臨んで、世界情勢は混沌とし、日本の針路や役割も定まっていない。経済情勢も大きな転換を迫られているにもかかわらず混迷を続けている。われわれは、既成政治にはこれらの時代の要請に応える対応力が充分ではないと認識して敢えて行動に踏み切り、新しい責任勢力の編成に取り組むことを決意した。われわれは本日、政治理念と政策姿勢を明示し、「新党さきがけ」を結成しあらゆる困難を克服して挑戦を続け、必ずや新しい時代のための新しい政治を実現する決意を誓いあった。われわれの政治事業に最も必要なものは国民的信頼と支援である。そしてわれわれはこの信頼と支援に対して身を捨てて応えていくことを確認した」

〈新党さきがけの政治理念〉
「一、私たちは日本国憲法を尊重する。憲法がわが国の平和と繁栄に寄与してきたことを高く評価するとともに、時代の要請に応じた見直しの努力も続け、憲法の理念の積極的な展開を図る。
二、私たちは、再び侵略戦争を繰り返さない固い決意を確認し、政治的軍事的大国主義を目指すことなく、世界平和と繁栄に積極的に貢献する。
三、地球環境は深刻な危機に直面している。私たちは美しい日本列島、美しい地球を将来世代に継承するため、内外政策の展開に当たっては、より積極的な役割を果たす。
四、私たちはわが国の文化と伝統の拠り所である皇室を尊重するとともに、いかなる全体主義の進出も許さず、政治の抜本的改革を実現して健全な議会政治の確立を目指す。
五、私たちは、新しい時代に臨んで、自立と責任を時代精神に据え、社会的公正が貫かれた質の高い実のある国家、『質実国家』を目指す」

 ともに旗揚げの前日、田中秀征がわずか数分で書き上げたものだ。当人も、「自分の中からワアーッと湧いてきたものが文字になって出てきたんです。高揚していたんでしょう」と、錦織との対談本『この日本はどうなる』(近代文芸社)で述べている。
 錦織がさきがけに共感した理由は、一つは文明論に裏打ちされた世界観(理念)があること。もう一つは、本人の言によると、心に響く「感性」と「香り」があったからだ。ここまで錦織を「理念型」と評してきた。「理念型」と「感性」はミスマッチと思われるかもしれない。しかし両者が共生・共存しているところに錦織の真骨頂があり、またさきがけの魅力があるのかもしれない。ふつう「理念」というとなにやら頭でっかちで冷たいイメージがある。ところが錦織のそれは感性と熱情に裏打ちされている。学者や評論家が世間から距離をとって「世の中かくあるべし」というのではなく、熱い想いをもって「世の中はこうあってほしい」と願い行動に移す。これもまた学生運動と弁護士活動で培われたものだろうか。
(文中敬称略)






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