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ノンフィクション
緒方貞子さんの足跡
書籍・作品名 : 緒方貞子回顧録
著者・制作者名 : 緒方貞子  
敦賀昭夫   67才   男性   





緒方貞子さんの足跡
 『聞き書 緒方貞子回顧録』を読んだ。昨年亡くなられた緒方さんに6年前2人の国際政治学者がインタビューし、その足跡を聞き取った記録である。
 戦後まもなく日米両国でのアメリカの政策決定過程論や東アジアの国際関係史にはじまる学者時代、難民の具体的な人権保障の実践に取り組む国連難民高等弁務官(UNHCR)時代、そして平和構築としての開発援助に取り組んだ国際協力機構理事長時代、それぞれの立場での貴重な証言が語られている。
 緒方さんの足跡は「日本はなぜ戦争をしたのか」の関心に始まり、満州事変への道など、東アジア史を政策決定過程論の手法で分析した。
 政策決定過程とは、政策が立案から実施されるまでの順路を意味する。たとえば、いくらいい案ができても、それが取り上げられ、対案などとともに検討され、公認されるまでにはいろいろある。そういう観点から緒方さんは満州事変のぼっぱつの過程を分析した。今の日本では、公文書の改ざんや隠ぺいで、政策決定過程が検証できない。それはより良い政治に向けての蓄積が安倍政権の時代ではできないということなのだ。
 緒方さんに戻る。その歴史や政治の検証方法を緒方さんは後に、戦争の現場での難民救援の実務に生かしていく。
 UNHCR時代以降、最も緒方さんが力を入れたのは、海外に避難した人だけでなく、紛争当事国内の難民も救おうとしたこと。
 それまでUNHCRは国内の紛争や飢餓など災害で国外に逃れてきた難民を国境の難民キャンプで受け入れる活動をしてきた。
 緒方さんは国内で避難している難民を救援するために紛争国や政治の機能が停止した国の国境を超える。もちろん危険だ。そのために紛争国内の政府や軍、また国境の外で警備するPKO部隊の支援を取り付けた。
 「飢えと恐怖からの自由」を求めている人がいればどこでも行く。研究者や実務者もとどまるところで国を超え、国家の安全保障でなく、全世界の国々が国境を超えて取り組む人間の安全保障の道筋をつけた。
 冷静な政治学の学問的知見、人権保障の強い信念を持ち続け、辛抱強い折衝やコンセンサス作りなどの実務を展開した緒方さん。未来から来た国際立憲主義(世界の万人の権利の実効的保障)の実践者だった。
 コロナ禍に苦闘する世界。感染症が世界を一つにしている。緒方さんの辿った道を頼りに世界中が話し合い、協力し合い、世界に人間の安全保障を実現していきたい。






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