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映画
「死と再生」と言うテーマに違和感
書籍・作品名 : キャッツ
著者・制作者名 : トム・フーパー監督 米国 2020.1日本公開  
すすむA   59才   男性   





映画『レミゼラブル』や『英国王のスピーチ』の巨匠トム・フーパー監督の手になる『キャッツ』は、デヴィッド・マレット監督で1998年にも映画化されていて、これで二度目になる。今回はIMAXrazerで観たせいもあるが、98年版とは比較にならないと感じ入った。前作の猫どもは、「人間が猫のふりをしていると」いう印象だったが、今回のは、「猫が人間のふりをしている」のではないかと疑ってしまうほどの真柏感があった。何より驚いたのは尻尾で、舞台もそうだったが、前の映画では、尻尾はコスチュームの尻にだらしなく垂れ下がっているだけだったのが、今回はぴんと立って左右に振れ、踊りやセリフに合わせて表情豊かに「演技」しているではないか。耳を動かす猫すらいる。その衣装も女性(メス猫)のバストを強調する仕立ては影をひそめた。要するにより猫らしくなった。

さらに、白猫ヴィクトリアを演ずるフランテェスカ・ヘイワード の愛らしさにめろめろになった。彼女は英国ロイヤルバレー団の主役級のバレリーナだそうだ。『オペラ座の怪人』でクリスティーヌを演じたエミー・ロッサムの時もそうだったが、ミュージカルは登場したとたんに観客の心をわしずかみしてしまうキャスティングが上手だ。長老猫オールド・ジェットロミーも本来の男性役からエリザベス女王を彷彿とさせる女性に代わり、他のメス猫たちも、前作のような、半ば嫌悪感を催す過剰なエロチックさが消えうせ、健康美が光った。

今作は、捨て猫ヴィクトリアとマンガストラップの二匹の猫を「舞台回し」にしたので、もともと物語性の乏しい舞台に、捨て猫が誇り高いジェリクルキャッツに迎えられるというストーリーが加わり、場面もたびたび舞踏会場の外に移動したので前回のような「飽き」が来なかった。

ストーリー性が増したので、このミュージカルは、「老いゆく者への鎮魂」といったテーマを持っているのだと、劇団四季公演を二度観てもわからなかったことを、今回初めて知った。そう思うと登場人物?(猫)たちも、オールド・ジェットロミーをはじめ、老女優クリザベラもかって劇場大スターだったアスパラガスも、お金持ちのバストファー・ジョーンズもみんな老い猫ではないか。若さが売り物の英米社会で老いてゆくのは辛い。名曲「メロディー」もそういう思いで聞くと、要するにTomorrow is another dayとのみ言っているのであって、迎える日に「希望」があるとは言っていない。今日も昨日と同じように苦しいのかもしれない。

老いた猫はどこに行くのだろう。ジェリクルキャッツは舞踏会で選ばれた猫が天上に上るという、キリストやマリアの昇天を強く暗示するシーンで幕を閉じる。原作はT・S・エリオットの1939年の作品『キャッツ - ポッサムおじさんの猫とつき合う法』という骨董品だそうだが、原作の詩は独創的な猫たちの紹介だけで、昇天のストーリーはない。この部分はキャッツ制作スタッフの創作なのだろうか。池田雅之『猫たちの舞踏会』角川書房2013年と言う蘊蓄本は、このミュージカルのテーマは「幸せ探しの旅へのいざない」であり、そのシーンは“老いぼれ猫たち”の「死と再生という生命のサイクルの神話を謳いあげている」と言うのだが、そんな「教義」に現代の西洋人が違和感を抱かないのだろうか。私には「補陀落渡海」などを連想させてしまうエンディングで、そこだけは共感できなかった。






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