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文学
恋と革命
書籍・作品名 : 斜陽
著者・制作者名 : 太宰治  
ロビン   20才   女性  





 「人間は恋と革命のために生まれて来たのだ。」これは、太宰治の代表作の一つである『斜陽』の中の有名な言葉である。誰もが一度は見聞きしたことがあるだろう。しかし、この言葉の真意について考えたことはあるだろうか?私は、この言葉だけが一人歩きしているように思えてならない。そこで、この「人間は恋と革命のために生まれて来たのだ。」という言葉の真意は何なのか、また太宰はこの作品を通して私たちにどのようなことを伝えたかったのか、考えてみたい。
 さて、この物語は主な登場人物として、没落貴族であるかず子、かず子の母、かず子の弟である直治、そして直治の尊敬する作家上原が登場する。かず子の母と、貴族としての自分と世間との軋轢に苦しんで破滅した生活を送る直治は、戦中、戦後と変わっていく世の中についていくことができなかった人間、旧時代の人間として描かれているようにも見える。かず子が言うように、「日本の最期の貴婦人」として生きた母だったが、生活が困窮してもかず子のように畑仕事をすることもなく、「不良」になることもなかった。直治も、かず子に宛てた遺書の最後を「僕は、貴族です。」という言葉で締めくくった。
 結局、かず子が母と直治に違っていたところは、貴族としての自分と、世間・世俗との間に折り合いをつけ、良くも悪くも自分を変えることができたというところだ。この「自分を変える」という事が「革命」の第一歩ではないだろうか。
かず子は、夫ではない男性である上原との子供を身籠る。その上、上原には妻と子供がいる。つまり彼らがしたことは不倫であり、道徳的にも良くないことは明白だ。しかしかず子は上原に本気で恋するほど、世間知らずのお嬢様から革命家へと変わっていき、彼女の革命家としての思想は深まって行く。さらに、かず子は上原への最後の手紙にこう書いている。
「あなたの人格のくだらなさを、私はこないだも或るひとから、さまざま承りましたが、でも、私にこんな強さを与えてくださったのは、あなたです。私の胸に、革命の虹をかけて下さったのはあなたです。生きる目標を与えて下さったのは、あなたです。」
つまり「恋」は「革命」を行う原動力となっているのだ。これは太宰がこの小説を通して伝えたかったことの一つであろう。また、彼女は上原に宛てた手紙にこうも書いている。
「革命は、いったい、どこで行われているのでしょう。すくなくとも、私たちの身のまわりに於いては、古い道徳はやっぱりそのまま、みじんも変わらず、私たちの行く手をさえぎっています。海の表面は何やら騒いでいても、その底の海水は、革命どころか、みじろきもせず、狸寝入りで寝そべっているんですもの。         
けれども私は、これまでの第一回戦では、古い道徳をわずかながら押しのけ得たと思っています。そうして、こんどは、生れる子と共に、第二回戦、第三回戦をたたかうつもりでいるのです。
こいしいひとの子を生み、育てる事が、私の道徳革命の完成なのでございます。」
この言葉には、学生時代に反帝国主義運動に参加し、挫折した太宰の本心が表れている。ただ声を挙げたところで、世の中はそう簡単に変わるものではない。上辺だけで物事を言うのではなく、道徳から、つまり私たちの心の奥底から革命を起こし、それを続けていくことでやっと革命は完成されるのだと太宰は伝えたいのではないだろうか。そして、繰り返しにはなるが、その「心の奥底」に訴えかけるものこそ、恋なのである。
 そもそも、「斜陽」とは、一日の終わり、陽が沈む時に射す夕日のことを指す。そう考えれば、この物語は「終わり」を描いた作品なのかもしれない。しかし、陽が沈めば、必ずまた陽は昇る。この物語は、滅びの物語であると同時に、戦後の幕開けの時代に、不器用にもがきながら恋と革命のために生き、赤ん坊という一筋の陽を手にしたかず子が、古い道徳とたたかい続ける、そんな新たな革命の「始まり」を予感させる物語でもあるのではないだろうか。






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