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映画
乾いた哄笑
書籍・作品名 : パラサイトー半地下の家族
著者・制作者名 : ポン・ジュノ監督 韓国 日本公開2020年1月   
すすむA   59才   男性   





韓国映画にあって日本映画にないもの、それは「乾いた哄笑」だ、と以前に書いたことがある。藤原帰一氏も同じ感想を持ったようで、2020.1.12付『毎日新聞』の「藤原帰一の映画愛」に、この映画を「怒りでなく乾いた感覚、黒い笑い」と評されていて、私の含意を再確認していただけた。本作は2019年度のカンヌ映画祭のパルムドール受賞作品だが、2018年度の同じく受賞作品で話題もよく似ている是枝裕和監督の『万引き家族』と比べれば、その「乾き度」の差は歴然としている。

凄まじい経済格差、自然災害、あらゆる現代的災難が貧乏人に降りかかるという映画だ。韓国に限らずどこにでもある現象だが、不思議なことに韓国人俳優がこういう光景を演じると大仰な動作と滑稽さでテーマが一段と冴える。2009年に『母なる証明』でカンヌ映画祭入りを果たしたポン・ジュノ監督の実力でもあるのだろう

映像はのっけから、その格差を都市の“半地下住宅”に住むキム一家と郊外の“高台の豪邸”で暮らすパク一家の暮らしの「高低差」として視覚化する。ネタバレすると映画の面白さを半減させてしまうからストーリーは書かない(こんなレビューを読む人の大半はすでに映画を観ているはずだが……)。

この作品の面白さは、「貧乏人は善、金持は悪」と言ったステレオタイプな見方を逆転させているところにある。大富豪のパク夫妻は、人を疑うことを知らない紳士で、使用人にも優しい典型的な「金持ち喧嘩せず」の善人に描かれている。自分の境遇に満足しているので、他人もそれぞれに与えられた境遇に満足している筈だと思い込んでいるらしい。

パク夫妻の使用人に対する褒め言葉は「よく気がつくが差し出がましくない」というもので、昨今の日本の流行り言葉でそれを、「身の丈に合わせている」と言い替えることが出来るだろう。羽生田文科大臣の「身の丈」発言と同じだが、育ちの良い大臣は表面では謝っても、心の底では何故それが非難されるのか理解出来ないでいるに違いない。そういえば育ちの良い曽野綾子も、これは問題にならなかったが、新潮社のPR誌『波』12月号のエッセイで羽生田発言を肯定し、「私も身の丈に合わせてここまで生きてきた」と謙遜してみせた。それ自体は「自分しか見えない人」の単純で悪意のない発言だが、そういった「善意」が、自分の「身の丈に届いていない」と感じている貧乏人を苦しめるのに気がつかない。

キム一家は雇主がお人よしの善人であることを察知して次第に悪辣な陰謀を企てて行くのだが、いさかいは貧乏人同士で起きる。キム一家と彼らに追い出された前の使用人のグンセ、ムングァン夫婦との生存を賭けての争い。一人息子ダソンの誕生パーティでの惨劇でとばっちりを食うのがパク一家である。刃傷沙汰が貧乏人同士の無方向の「狂気」の暴発でしかないのが、息を呑むほど惨めだ。

パク氏殺しで逃走中のキム・テジグを助けるため息子のギウは、いつの日か邸宅を購入して、豪邸の地下に潜む父親を助けると誓う終末に至る。しかし兵役を挟んで4回も大学受験に失敗し、一家の収入も失ったギウにそれがかなう確率は1億分の1にも満たないであろう。ポン・ジュノ監督の「乾いた哄笑」の真骨頂が示される場面であるが、観ている我々は笑えない。






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