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学術
盗聴される授業、検閲される教科書
書籍・作品名 : 大学における〈学問・教育・表現の自由〉を問う
著者・制作者名 : 寄川条路  
寄川条路   57才   男性   





盗聴される授業、検閲される教科書
「明治学院大学事件」の裁判記録が公刊される

寄川条路

寄川条路 編
小林節・丹羽徹・志田陽子・太期宗平 著
▼大学における〈学問・教育・表現の自由〉を問う
12・1刊 A5判96頁 本体926円
法律文化社

 大学当局が教授に無断で授業を録音し、無断録音を告発した教授を解雇した「明治学院大学事件」。東京地裁による解雇無効判決にいたるまでの、事件の概要、裁判所への法学者による意見書、判決文およびその解説を収めた全実録が刊行された。
 本書には、学問の自由、教育の自由、表現の自由の根幹を揺るがし、「日本の大学界の病弊を象徴する大事件」とも呼ばれた「明治学院大学事件」の記録が収められている。本来「学問・教育・表現の自由」が保障されるはずの大学界への教訓として公刊されたものである。
 二〇一八年六月、東京地方裁判所は、大学当局による教授の解雇は無効であるとの判決を下した。判決によると、明治学院大学は二〇一六年一〇月、授業を盗聴され秘密録音されたことを告発した、教養教育センターの教授を懲戒解雇していた。大学の組織的な盗聴行為を告発して解雇されたのは、教養科目の倫理学を担当する教授で、同大学の教職員が授業を盗聴して秘密録音し、授業の録音テープを本人に無断で使用していた。
 大学当局によれば、明治学院大学では、慣例として授業の盗聴が行われており、今回の秘密録音も大学組織を守るために行ったとのこと。また、同大学では、大学の権威やキリスト教主義を批判しないように、授業で使用する教科書を検閲したり、教材プリントを事前にチェックして配付を禁止したりしていた。さらに、学生の答案用紙を抜き取って検閲したり、インターネット上の書き込みを調査したりしていた。
 二〇一六年一〇月、解雇された教授が東京地方裁判所に労働審判の申立を行ったところ、裁判所は解雇を無効として、同教授を復職させるよう明治学院大学を説得したが、大学側が拒否したため訴訟に移行していた。訴訟では、授業を秘密録音して教員を解雇した「目黒高校事件」(一九六五年)と同じように、学問の自由、教育の自由、表現の自由をめぐって争われていた。
 一年半に及ぶ審理ののち、東京地方裁判所は、明治学院大学に対し、解雇の撤回と無断録音の謝罪を提案したが、大学側がこの提案を拒否したため和解は実現しなかった。そのため、裁判所は二〇一八年六月、解雇について、合理的な理由も社会的な相当性もないため、解雇権を濫用した無効なものと判断した。
 この事件の結果が報じられたとき、本件は、「リベラルな大学」での特異な出来事と受け止められたが、実際のところは、現在の日本の大学界に広く蔓延している病状の一例にすぎない。明治学院大学のように授業の盗聴や録音を無断で行っている大学もあれば、授業の撮影や録画を行っている大学もある。このような日本の大学の現状を知ってもらうために、本書を公刊することにした。
 本書には、裁判所に提出された法学者の意見書と、それを受けて裁判所が下した判決書が収められている。
 まず、憲法学の大御所である小林節は、「学問の自由」という観点からその理念を歴史的にひもとき、つぎに、教育法の権威である丹羽徹は、「教育の自由」という観点から強固な法理論を構築し、そして、表現法について第一線で活躍している志田陽子は、「表現の自由」という観点から事件を緻密に検証している。さらに、判決文は、裁判所の承諾を得たうえで公表し、担当弁護士の太期宗平が的確な解説を加えている。
 本書は、事件の概要、裁判所への意見書、判決文と解説を収めた「明治学院大学事件」の実録であるが、日本の大学界全体の教訓として必要不可欠なものであるとの指摘を受けて公刊された裁判記録である。編者としては、読者に、日本の大学の現状を知ってもらって、そこから「学問・教育・表見の自由」を考えてもらいたいと思っている。
 なお、本書は、シリーズ「学問の自由」の第一号である。「明治学院大学事件」の裁判記録である本号に続いて、第二号として、法学者・教育学者・倫理学者など、大学関係者による論文集が予定されている。
(明治学院大学教授・思想文化論)






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