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学術
文字通り「真の武士の世到来を告げる大乱」
書籍・作品名 : 承久の乱
著者・制作者名 : 坂井孝一 中公新書 2018.12  
すすむA   58才   男性   





2冊の〚承久の乱〛が相次いで出版された。坂井孝一(中公新書2018.12.25)と本郷和人(文春文庫2019.1.20)著である。

二書の違いは、承久の乱が北条義時の排除か鎌倉政権の打倒(討幕)かにある。結果から見れば双方共に成らなかったのだが......

本書の書き出しは、承久の乱から150年遡る「上皇」の登場から始まる。その間には目まぐるしいばかりに政変があった。鎌倉幕府内でも血なまぐさい勢力争いが続いた。

本書はそう言った激動を鎌倉武士と京都朝廷とを対比させながら描く。主役は後鳥羽上皇(天皇と上皇を含めた在位:1183-1221年)と源実朝(将軍就任1203-1219年)。年齢差12歳。後鳥羽は三種の神器のうち、宝剣なしで即位した初の天皇で、そのため「正式な王とは何か」の答えを追い求める天皇だったと書かれる。

相方の実朝は頼朝時代の人ではない。実朝の名付け親は後鳥羽であったとも伝えられ、上皇の従妹を娶るほど後鳥羽帰依者であった。子供のない彼の後継将軍に後鳥羽の息子を据えるという案は実朝から出たという。実朝を使って朝廷の影響力を強めたい後鳥羽と、親王将軍を擁して朝廷をコントロールしたい幕府の思惑が奇妙に合致した。

そこへ来て1219(建保7)年1月27日の実朝暗殺である。公暁単独犯行説/義時陰謀説の推察は尽きないが本書は単独説を取る。「しかし、一人の若者が犯した犯行は、歴史を動かすほどの重大な結果を生んだ」

後鳥羽の夢も潰えた。宿ったのは、鎌倉は信用できないとする不信感だ。一旦受諾した親王下向を破棄し代わりに摂政の息子を押しつけたうえで、所有する二つの荘園の地頭職を手ばなすよう要求する。幕府の従順度を試したのであるが、にべもなく拒否され、朝幕の蜜月期は終わる

実朝暗殺から承久の乱までに2年半の歳月がある。その間に源三位頼政の孫頼茂の反乱による大内裏消失と言うとんでもないハプニングもあり、後鳥羽は一時この修復に熱中するが、費用徴収への抵抗が各地で起こり、中断せざるを得なかった。いよいよ「北条義時の追討へ」と方針が転換する。その時期は1220(承久2)年7月頃ではないかと推定される。

ここで後鳥羽の計画が鎌倉幕府追討でないことが本書の眼目である。その論理は、「後鳥羽の意思に従いたいという御家人たちの願いに反し、奉行の北条義時が朝廷の意向を笠に着て政治を乱している。義時の奉行をやめさせ、後鳥羽の意思で政治を行えば御家人たちの願いも叶えられる。つまり義時排除と言う一点で御家人たちと後鳥羽の利害は一致する」であった。治天の君として国の最高権力者を自負する後鳥羽には、義時も彼の王国の支配人にすぎず、悪代官を排除すれば正道に戻る、と考えていたようだとする。

1221(承久3)年5月15日、後鳥羽は「北条義時追討の官宣旨」と「院宣」を下す。だがその中に当然あるはずの追討使の任命に関する記述がなかった。本書はこれを巡って、「後鳥羽の傲慢」、とする通説に抗する所説を紹介しているが、これも新味がある。

関東側はこの動きを全く察知していなかったとされる。一時は仰天したが、押収した官宣旨と院宣にある、義時個人の追討を「討幕」と読み替えた政子や、追討使が任命されていないのに気付き、鎌倉を固めての持久戦よりも相手側の体制が整う前に京に上る速戦を主張する大江広元等の文官の意見も義時ら幕閣の決断を促した。

ここから京方の敗戦に至るまでの経緯は軍記物語を読むような迫力だが、著者は両軍の性格を「チーム鎌倉」と「後鳥羽ワンマンチーム」と一句で比較してみせる。現代社会を例えての上手な比喩だが、過程を通しての感想はやはり「後鳥羽の傲慢」だろう。

蜂起から終了までちょうど一か月のあっけない戦であった。敗れた後鳥羽等三上皇は島流しされ、西側についた朝廷武士や在京御家人たちは容赦なく誅された。鎌倉武士の面目新たなりである

後鳥羽の仕組んだ乱は結局、1)これまで同等であった朝廷と幕府の権力関係を劇的に変え、幕府は天皇の任免にまで介入できる力を手に入れた。2)没収された在京御家人の知行地は関東御家人の手に移り、幕府の直接支配力は全国に及んだ。3)幕府の支配形態がこれまでのどちらかといえば恣意的なものから、「御成敗式目」による法的管理へと客観的統治に進歩した。

冒頭で著者は、「八百年前に生きていた人々にとっては八百年前のその時が現代であり、どのような未来が訪れるのか予想もできない中に生きていたという点では、現代人と変わらない……八百年前の過去を理解するために、過去と現代の対話を試みることは無駄なことではない」、と記す。

私にとっては、後鳥羽や義時の生き生きとした表情までも想い浮かべさせる巧みな叙述と歴史的意味を同時に楽しんだ好著だった。






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