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思想
「劣化」した市民を覚醒させることは可能か
書籍・作品名 : リベラル再生宣言
著者・制作者名 : マーク・リラ/夏目大訳 早川書房 2018.10  
すすむA   58才   男性   





何故アメリカはドナルド・トランプを許してしまったのか。本書はその原因をアメリカ社会の歴史的な体験を示して描きだす。保守層を担ってきた共和党とリベラル層を担ってきた民主党の活動を分析しながら、民主党により厳しい視線が向けられている。

アメリカの政治史を大きく分けると、1940~70年代末まで「ルーズベルト体制」と1980~2016年の「レーガン体制」に帰すると著者は言う。これら「信条」を持った二つの体制はともに、いま「基本となる主義主張のない」ポピュリストの台頭によって終わりを迎えようとしている。

ルーズベルト体制とは、ケネディがいみじくも「国民は国に何を貢献できるか」と述べたような、国民と国家を一体とする信条である。ケインズ主義に縁どられた、この輝かしきパックス・アメリカーナ時代は、70年代のスタフグレーションとベトナム敗戦の混乱の内に終焉する。この40年間のうち民主党が24年、共和党が16年の政権を担った。

次のレーガン体制の信条は「自己愛」である。ハイエクが跋扈する。人々は国よりも自分や家族の幸福を優先し、「成功」が強迫観念となった。政府も成功者が思い描く方向に向いてさえいれば良くなった。社会は勝者/敗者の間で分裂し、勝ち組の大富豪からの寄付を得た政治家が幅を利かせるようになった。自己中心的で原理主義的な過激な意見が、本質は中庸なレーガン政権を飛び越した。この36年のうち、共和党政権が20年、民主党政権が16年と前体制を逆転した。

その間の民主党政権がとった政策は、クリントンは「中性化」を図り、一方のオバマは数々のリベラル政策を打ち出したが、そのことごとくが議会多数派の共和党に阻止され、「死に体」のオバマ政権などと揶揄される始末だった。

そして2016年「レーガン主義思想から一部を取り出し、それをさらに過激化させるような新しいポピュリスト扇動政治家が登場する」。従って著者の眼目はトランプ政権の裁断ではなく、彼の登場をもたらしたリベラルと保守の、暦年の活動や政策の違いを分析するものだ。

その間リベラルがしてきたことは、支持者を「アイデンティティ政策の藪の中に迷いこむ」ことだったと著者は言う。人種差別、排外主義、同性愛嫌悪と言った、個人個人の内面に関わる問題を最重要視し、彼らの主張を個別に実現させるように働きかける運動、アリス・ウオカーが唱えた「個人的なことは政治的なこと」を「政治的なことは個人的なこと」へと逆転させた運動は、議会を軽視し、市街地での直接行動や、大学や法廷内に活動の場を移してしまった。論争はどちらが正義か不正義かの判定になり、議会内闘争のように、双方が受け入れられる妥協点を探るといった「大人」の活動は蔑ろになった。

これに対して保守派がしてきたことは、自分たちが始め、リベラルが高揚させてしまった感情を利用して自らの足元を固めること。伝統的な倫理観を持つ人々に、アイデンティティリベラリズムに対する嫌悪を煽り、連邦議会で争う前に息のかかった州政府や自治体政府を味方につけてゆくこと。つまりは選挙上手になることだ。このようにして共和・民主両党とも国民の細分化と分断を深めてしまったのだという。

ここで著者は提言を行う。リベラル民主党は「ルーズベルト体制」のビジョンに「リセット」することが肝要だと。そのために優先すべき事項を三箇条に要約する。1)「運動による政治よりも、政府機関、議会による政治を優先する」2)「目的のない自己表現よりも、民主的な手続きを通して自分たちの意見を通すことを優先する」3)「集団や個人のアイデンティティよりも、誰でも市民であることを優先する」

「市民であること」。この言葉は放置され過ぎて来た。市民とは政治的立場であり、それ以上でも以下でもない。皆を等しく市民とみなす考え方は「私たち全員が自由意思を持つ存在でありながら、同時に法の定める共同事業体の一員であることを強く意識させる」と著者は言う。この言葉は特定のアイデンティティに固執した小さな連帯を超える。市民による国民の統合、アメリカはまさしくこの理念から建国された。

民主党は何よりも政権を奪取すること。政権を取ることでビジョンが実行可能になるのだ。アメリカ大統領選挙史は常に僅差の戦いだった。もう一歩支持者を広げること。そのために必要なもの、それは「寛容」だ。

多分にロマン主義的な主張だが説得性には富んでいる。だがそのハードルはかなり高いようにも思われる。特にトランプ登場後における、政権党側にいる議員から庶民に至るまでの人々の質の低下がはなはだしい現状ではなおさらだ。自分を省みない人たちの覚醒は「寛容」を示すことだけで可能なのか。とにあれ、いま行動を起こす側はリベラル派である。ここ2~3年は息詰まる陣取り合戦になるのだろう。






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