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映画
キリスト教信者だけが感激すれば良い?
書籍・作品名 : パウロ-愛と赦しの物語
著者・制作者名 : ヤン・A・カチュマレク監督 2018年  
すすむA   58才   男性   





イエス・キリストの知識はそれなりに豊富でもパウロに関しては、12使徒に代わってキリスト教を確立したのは彼だったとか、最後にローマで殉教したとか言う以外のことは知らなかった。この映画はそのパウロの最後を記す。

パウロが高年齢であることが驚きだった。享年62歳であったようだが、少し弱々すぎると感じた。映画の主役は、宣伝されているように、ルカ役のジム・カヴィーゼルで、パウロは脇役のようなのも不思議だ。実際ルカはローマでパウロと出会うまで、この有名な伝道者を知らなかったとされている。パウロが獄中で書いた息子「テモテへの手紙第2」の最後に、『ルカだけがわたしのところにいます』(4.11)とさりげなく書かれた一行から、監督はパウロとルカにまつわるこの劇映画を作ったと述べる。創作なのだ。ルカは頻繁に獄舎を訪れ、パウロの治療や手紙の代筆をするうちに、パウロに帰依してゆく様子が描かれる。そのルカもスパイの罪で捕らわれてしまう。

パウロはその手紙で、ひたすらキリストへの信頼と、清く正しく貧しい生活を選ぶように、とだけを繰り返し述べている。キリスト死後既に半世紀近い。ローマのコミュニティーに見るようにネロによる外部からの過酷な弾圧と、内部の意見の相違から教団は絶滅寸前である。特に拡散気味の教徒たちを団結させるには、彼自身がキリストを演じる以外にない、すなわち殉教すること、と達観してローマに来たと映画は描く。

一方のルカはモーゼを演ずる、と読める。パウロを迫害する獄舎の長官マウリティウスの娘が瀕死の病となる。パウロは優秀な医師のルカを長官に紹介する。これはパウロの「取引」とも受け止められかねないが、映画はパウロの「至上の愛」と読み込まれるようにと必死だ。異教者から治療を受けることにためらうマウリティウスだったが、すべての手段を失い、ルカに縋る。

娘を全快させたルカと、エフェソスに向けてローマを脱出してゆく信者たちがオーバーラップされる。妨害もされず、脱出にはマウリティウスの暗黙の承認があったことが示唆される。同時に、獄舎につながれている大勢のキリスト教徒の処刑とパウロの斬首が暗示されて映画は終わる。ここで描かれるパウロの神通力は十分ではない。

キリスト教徒を感激させるには十分な創作だとしても、信者でない私にはいささかすっきりしない物語だった。パウロの回心はフラッシュバクで描かれるが、それから彼が捕らえられるまでの間何をしたのか、という行跡がはっきりせず、どうしてパウロが第二のキリストに讃えられているかがいまいち納得されないのである。

パウロには信仰者だけでなく組織者としての政治力も備わっていたはずだが、その辺りは皆目判らない。無教養な異教者は端から相手にされない映画か。






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