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その他
患者の目から精神医療のあり方を問う
書籍・作品名 : 疾走の果てに
著者・制作者名 : 神宮清志  
栗谷文治   68才   男性   





 精神病院は、健常者にとっては謎の世界である。足を踏み入れるのはちょっと怖い気がする。しかし、どんな治療が行われているのか、覗いてみたいような気もする。著者は能面師として一家を成す一方で、生活の資を得るため大学職員として定年まで勤め上げたが、大病を経て現在は人生最期の時を待つ心境にあるという。
 1960年から約一年間、著者は東京郊外のとある精神病院に「収監」されていた。そこでは身体拘束や電気ショック療法というものが、いわば懲罰的にごく当たり前のよう行われていた。敗戦から15年、社会には優生思想の残滓がまだまだ存在していたのだ。
 本書は、いまはやりの自分史というジャンルにくくられるのかもしれないが、そんな小さな枠に収まりきれない社会への告発、問題提起を含んでいる。刊行に際しては奥様から強い反対があったと聞く。無理もない、いままで精神病院入院のことは家族にも一切話したことがなかったのだ。精神疾患への世の中の偏見は60年後のいまも変わっていない。著者は、このことを書かずには死なれない、本書が滄海の一粟〈いちぞく〉になればとの思いで刊行を決意した。
 この入院の顚末を記した「鉄格子の中の別世界」のほかに、極貧の中のでの戦争体験、発病の因ともなった松川事件への関与、苦学を支えた水商売の世界など、一市井人の見た風俗史の趣きもあり、達意の文章と相まって巻置く能わずの思いで一気に読ませられる。なお、著者の祖父は、かつてある新興宗教の教祖の地位にあったが、路線の違いから宗派から追放され、宗派の記録から抹殺されたという過去が語られる。埋もれた歴史を掘り起こす著者の作業も興味深く語られている。


 






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