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学術
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内面管理型セラピーの衰退/遠隔管理型セラピーの黎明
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書籍・作品名 : 心を遠隔管理する社会―カウンセリング・教育におけるコントロール技法―
著者・制作者名 : 中島 浩籌
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中井 孝章
51才
男性
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著者によると、社会状況の変化にともない、カウンセリングやサイコセラピー(以下、まとめて「セラピー」と表記)そのものが重点移動してきたという。すなわち、C.R.ロジャーズの来談者中心療法をはじめ、いわゆるセラピーは、何か「問題」が起こったら個人の内面(心)に原因を求め(=病因論)、個人の責任とする「個人還元」主義や、社会や組織への自発的な適応、すなわち「適応主義」を特徴としてきた。精神分析もまた、そうした「問題」を幼児期における親子関係へと還元する「深層主義」「親子主義」をとってきた。精神分析も含めセラピーは、クライエントの「内面管理」に専念してきたわけだ。
ところが現在、こうした「内面管理」を重視するセラピーは様々な批判に晒されている。
その代表的な批判はおよそ3タイプあるが、まず1つ目は、社会構成主義の立場を共有するポストモダンセラピー(短期療法、ナラティブセラピー、認知行動療法)である。これは、セラピー内部からのリフレクションだといえる。
2つ目は、精神医学に基づく薬物療法である。一昔前、「うつ」といえば、精神病の「鬱」を意味したが、いまや、“心の風邪引き”となり、“セロトニン代謝異常”として薬物治療の対象となった。「うつ」の原因は、複雑な心の働きにではなく、脳の構造に求められるというわけだ。その背景には、グローバリゼーションのもとでの時間の効率化がある。
3つ目は、著者が独自に見出した新たな管理技術としてのコミュニティ心理学である。ただこれについては、成立過程が複雑であるため、説明を要する。著者によると、現在、わが国のスクールカウンセラーが率先して採用しているコミュニティ心理学は、1970年代・アメリカ出自の脱精神医学および地域精神保健運動から誕生したという。ここでいう脱精神医学とは、著者がM.フーコーを参照して述べるように、精神病院や精神科医等が独占していた精神科医療行為を地域精神保健活動へと開放していくものであり、ある意味で精神医学の日常化をはかるものである。それゆえ、その流れを汲むコミュニティ心理学もまた、問題のある人を治療するのではなく(「個人還元」批判)、“健康な人”を含むすべての人々および彼らが置かれた「文脈」、すなわちコミュニティ全体を対象としながら、それ自体に「問題」が起こらないように、「予防=医学」的なまなざしを注ぐとともに、「問題」が生じても早期発見・早期介入していくといった新たな心理技法をとることになる。コミュニティ心理学が目的とするのは、健康なコミュニティの成長促進なのだ(それはまた、健康なコミュニティを阻害する「危険因子」をも抽出していく)。こうした重点移動が生じたのは、コミュニティ心理学の出自となった脱精神医学が精神医学の権力性を疑うことなく、暗黙裡に“正しいもの”と是認・肯定したことにある。また、そうであるがゆえに、それは、厚労省の〈健康日本21〉(=病気や障害による社会的な負担軽減)や〈こころのバリアフリー宣言〉(=心の中の不健全を自己検閲させるまなざし)と大変相性がよく、それらに加担したり、それらを促進することになるのである。
ところで、コミュニティ心理学は、スクールカウンセラーを通して「コミュニティモデル」として学校に浸透してきている。なかでも、埼玉県熊谷市では、「不登校半減計画」の一環として個別支援票(個票)によるカルテ管理と紙上コンサルテーションを導入した。それは、担任が管理職教員と話し合いながら生徒の個票を作成し、そのコピーを教育委員会経由で臨床心理の専門家がコメントを記入した上で、学校に保管し、教職員がそれを参考に生徒指導にあたる、というものである。その媒体となる個票には、生徒の特性、性格、家庭状況など様々な項目があり、専門家は生徒と一度も対面することなしに、文字通り「紙上」で生徒にかかわる教職員に指示や助言を与える。従って、それは、スクールカウンセラーと児童生徒のかかわりを、従来の「直接的関係」から「間接的関係」へと根本的に変質させてしまう。こうした管理技術の重点移動こそ、著者が力説する「心を遠隔管理する社会」の正体なのだ。それどころか、それは「さまざまな心のサイン/データが指し示す傾向によって個人を捉え、管理していこうとする方向へと心理的な技法は向かっている」(p.172)のであり、「予防的なまなざしの下で、個人はさまざまな要素・サインに分割され、データとなってカードやコンピュータに記録されてい」き、「データベースという集合体maaseの一部となっていくのだ。」(p.174)深読みすれば、それはいずれ、情報技術の進展を背景に、開放環境での分割可能な個人(=情報の束)を制御する権力(環境管理型権力)へと進化を遂げていくのではないか、と思うのは、評者だけの妄想なのだろうか。 |
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