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文学
読み返すことで深まるストーリー
書籍・作品名 : 平面いぬ。
著者・制作者名 : 乙一  
a.   19才   女性  





 友人の家で刺青の修行をしていた中国人の彫師を一目で気に入った主人公。しかしその中国人が腕に彫ってくれた可愛らしい犬の刺青は、吠え、食べ、皮膚を自由に動き回る―。
 これはそんな変わった刺青を持った主人公の物語である。

 本書は『石ノ目』、『はじめ』、『BLUE』、『平面いぬ。』というそれぞれ独立した4作品からなる短編集だ。著者の乙一は、1978年に福岡で生まれ、17歳のときに『夏と花火と私の死体』でデビューした。ファンタジーやホラーの分野で活躍しており、映画化や漫画化された作品も多い。著書としては『天帝妖狐』や昨年映画化された『GOTH』などが挙げられる。本書はそれらと比べるとグロテスクな描写やホラー的な展開が少なく、特に『平面いぬ。』という物語は誰でも気軽に読みやすい作品である。

 主人公の鈴木は両親と弟と4人で暮らす女子高生だ。鈴木の数少ない友人である山田は彫師の父親を持つ同級生で、主人公に中国人の彫師を紹介した人物でもある。この物語には主人公に彫られた刺青が生きているという以外のファンタジー的要素はなく、主人公も少し変わった部分はあるが普通の女子高生である。また展開も速く分かりやすい文章であるため、一度読んだだけでも感情移入しやすくなっている。
 しかしこの物語は一度だけではなく、ぜひ家族の視点からもう一度読み返してみてほしい。家族という身近な存在でありながら、残される主人公は残していく主人公の家族とはまるで正反対の立場である。それにも関わらず、この物語は「残される者」側からしか描かれていないのだ。したがって家族に対する感情も主人公のもの、もしくは主人公が推測したものしか描かれていない。
 この物語の重要なポイントは、視点は「刺青の犬ポッキーを腕に飼う主人公鈴木」であるものの、そこから描かれている大きなテーマは「家族愛」であるということだ。それぞれ重い病で余命半年ほどと診断された主人公の両親と弟、そしてまもなく一人で生きていくこととなる主人公。この家族間の関わりや考え方の変化が見所なのである。

 「ミサエとは付き合いが長い。彼女はわたしのことを全て見通しているようだった。・・・(中略)・・・彼女はどことなく、疲れた様子だった。聞くところによると、旦那の診 断結果を聞くために病院へ行った帰りらしい。わたしは、彼女の旦那が体を患っていることすら、今まで知らなかった。」(『平面いぬ。』)

 上の文章は物語の序盤で主人公が街中で偶然ミサエと出会い喫茶店で話しているシーンである。これを主人公が母親と喫茶店に寄った際に、自分の父親が病気と知った場面だと理解できる読み手がいるだろうか。このよそよそしい表現から分かるように、主人公以外の家族が皆死んでしまうという事実が分かるまで、主人公と家族の間には大きな隔たりがある。しかしこの隔たりがなくなっていく様子もまた、文面としては主人公の側からしか見ることができないのである。
 読み返しを勧める決定的な理由は、家族に迫る死と家族の関係、そしてそれらに大きく影響を与える刺青の犬ポッキーという要素がたった80ページに全て収め切られているということだ。つまり各人物についての描写が少ないのである。そのため読み手は文章が淡白であるようにも感じるが、一方で大きく想像を膨らませることができるのだ。

 これまで家族の視点で読み返すことについて述べてきたが、家族の中でも特に主人公の弟であるカオルの立場で読むことをお勧めする。勿論両親の立場から読んでも娘を一人置いていく辛さや苦しさがあるのだが、弟はそれとはまた違った感情を主人公に抱いているのだ。
 主人公が両親との間に壁があると感じていたのは、出来のいい弟ばかりが愛される一方で自分ばかりが小言を言われていると思っていたからだった。弟に嫉妬していたために、主人公は両親だけではなく弟との間柄もあまりよくなかったのである。しかし弟視点で読んでいくと全くそのようなことはない。こうした姉弟間の互いのイメージと現実との違いを想像すると、より切なさが増すのである。
 読み返す前提で本書を手に取る必要はない。軽い気持ちで読めるところもまた本書の魅力である。ただ別の理解の仕方もあるのだと思いながら読むだけでも、十分新しい世界が開ける一冊である。






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